第36話 レイプ・ドラッグ

わたくしと女性の周りに人だかりができました。


店内にいたお客さまたちが何事かと見に来たのです。そのなかの1人が、しゃがんで女性の腕を取り、脈拍を取りました。アジア系の米兵でした。


「私は、軍医です」

 と英語で言いました。


「大丈夫でしょうか?」

 とわたくしは英語で尋ねました。


 アジア系軍医は瞳孔を調べたり、首や指の硬直した症状などをみて、


「何か薬物を飲まされた可能性がありますね。服装が乱れているところを見ると、暴れて逃げてきたのでしょう」

 と冷静に話しました。


「レイプ・ドラック」

 マービーがつぶやきました。


「水をのませてください。水、ありますか?」

 アジア系軍医がそう言われました。


 わたくしは、売り場の冷蔵庫からペットボトルの水を持ってきて軍医に渡しました。軍医は女性の半身を抱き上げて水を飲ませました。


 他のお客さまたちが見守っています。米兵たちや、その仲間の女性たちも心配そうな顔で見ています。日本人のカップル客も、女性がどうなるのか、遠巻きに見ていました。団結鉢巻の人も数人、店に入ってきて様子を見ていました。


 女性はよろよろと立ち上がります。



軍医が肩を貸してトイレへと連れていきました。女性が嘔吐する声が聞こえてきました。


 救急車がやってきました。ストレッチャーが店のなかへ入ってきて、女性を乗せました。女性は安心したのか、足を伸ばして目を閉じました。


救急隊員は、酸素マスクを女性につけます。そして、急いで救急車へと運びました。わずか5分くらいでしょうか。



救急車はサイレンを鳴らして去っていきました。




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