第35話 救急車をお願いします!
隊長さんが外へ出てきました。
自衛隊員を小突いている団結鉢巻さんのところへ行って「ちょっと、辞めていただけますか?」と断固とした言い方でした。目は鋭く相手を射抜くように見ていました。
それまで騒いでいた人たちも静かになりました。
「謝ってくれたら警察沙汰にはしないと言ってますが、どうしますか?」
隊長さんは他の人たちにも聞こえるように大きな声で言いました。すると、また騒ぎはじめます。
「悪いのは奴らだろ」
「謝るのは奴らのほうだ」
「米兵なんか、日本から出ていけばいいんだ!」
という声が駐車場の夜空に響きます。
午前0時の初詣に行く人たちでしょうか。通りから駐車場に入ってきて、遠巻きに野次馬たちが見ています。自衛隊のトラックや装甲車なども珍しいので野次馬たちはジロジロと見ています。
なかにはスマホで撮影している人もいます。若いカップルは、この風景をバックにして撮影していました。
そのときです。
野次馬の群が2つに割れました。モーセがエジプトを脱出するとき海が割れて道ができたように、群衆のなかに道ができたのです。
そして、その道をフラフラと若い女性が歩いてきました。口元がダラリと弛んでいてヨダレが垂れています。ワンピースの胸ボタンが引きちぎられていて、服装が乱れていました。ストッキングも破れていて、裸足でした。
どうしたことでしょうか?
「ト・イ・レ」
弛んだ口で、途切れ途切れに言いました。
トイレに入りたくて、お店へやってきたようです。
わたくしは、女性のところへ駆け寄り、手を取って一緒に歩きました。ともすると、倒れてしまいそうでしたので、時折、わたくしは女性の腰に手を添えて歩きました。お酒の強烈な匂いがしました。
女性は倒れました。トイレへ行く途中です。
雑誌の陳列棚があるところの床に女性は倒れて引きつけを起こしてしまったのです。そして床には女性の体から尿が流れ出ていきました。脱糞もしているようです。
異様な匂いがわたくしの鼻腔を直撃しました。思わずわたくしは鼻をつまんで顔を歪めました。
「大丈夫ですか?」
わたくしは、女性の肩を抱いて言いました。
大丈夫でないことは、素人のわたくしにもわかりました。女性は意識が朦朧としていて、大便と小便を垂れ流しているのですから。
それに両手の指がいびつに曲がって硬直していましたし、首を伸ばして苦しそうでした。
救急車を呼ばなくていけません。
勤務中は誰もスマホを持っていませんので、店の電話を使うことになります。見ると、電話のあるところにクリシュナさんが立っています。
「クリシュナさん! 救急車をお願いします」
わたくしは、大声で言いました。
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