第32話 大乱闘へと発展
団結鉢巻の人々が、大合唱していました。
「ゴー、ホーム、ヤンキー!」
「ゴー、ホーム、ヤンキー!」
「ゴー、ホーム、ヤンキー!」
大合唱が少しずつ店の中へ入ってきます。
「米兵は出ていけ!」
「沖縄は沖縄のもとへ返せ!」
「お前らの価値観を押しつけるな!」
団結鉢巻の女性が床に倒れた団結鉢巻の男のもとへ駆け寄ります。「大丈夫ですか?」と半身を抱き上げます。
後ろに控えていた白人米兵が「帰るのはお前たちのほうだ。さっさとお家に帰りな」と英語で言いました。
白人米兵は、グルリと視線を回して団結鉢巻たちに威圧感たっぷりに根目回しました。
わたくしは、それを訳してさしあげました。
とりあえず、団結鉢巻さんたちには、店から外へ出ていただきたかったのです。
米兵たちだって、欲しいものを購入すれば出ていくでしょうから、それで離れてしまえば、問題など起きないのです。
わたくしはそう思ったのですが、わたくしの思惑は大きく外してしまいます。
「何だと! ふざけやがって!」
団結鉢巻のなから目をギラギラさせた男性が飛び出してきました。お酒に酔っているのでしょうか、耳たぶが真っ赤でした。
その男性が、白人米兵に体当たりしたのです。団結鉢巻の男性は白人米兵もろとも陳列棚にぶつかりました。ガジャガジャンっと大きな音がします。陳列してあったチョコレートやグミやガムなどが床に散乱しました。
その音を合図にしたのでしょうか。
団結鉢巻が一斉に、米兵に襲いかかりました。白人米兵が2人に、黒人米兵が1人です。アジア系米兵は、遠巻きに見ているだけでした。
見ているだけと言っても、アジア系米兵はこの事態をどう収拾すればいいか悩んでいる様子でした。それは、わたくしも一緒です。
どうすればいいのでしょうか?
店内は騒然としていました。
米兵1人に対して3人の団結鉢巻が取りかかっていました。米兵の腹をつかんで離さない者、腕に噛みついている者、首に腕を回してヘッドロックしている者など、やや団結鉢巻のほうが優勢に見えました。
「早く! 警察に電話しましょう」
マービーが言います。
「どうしましょ」
わたくしは、躊躇して言いました。
するとマービーはクリシュナさんに向かって「クリシュナさん、電話してください」と言うのです。マービーは、自分で電話する勇気がないのでしょうか。
そのときです。
迷彩服を着た人たちが10人ほど入ってきて、団結鉢巻たちの背後に立ちました。そして隊長が「はじめ!」と言うと、一斉に団結鉢巻たちを羽交い締めにしました。
団結鉢巻たちが、いくら暴れても迷彩服の男たちにはかないません。羽交い締めにされたまま、団結鉢巻たちは外へ連れ出されて行ったのです。
自衛隊の小隊でした。
大晦日でも訓練をしていたのでしょうか。みなさん、泥のついた汚れた服を着てらっしゃいました。
「大丈夫ですか?」
と隊長は白人米兵に英語で言いました。
「オーケー! ト・モ・ダ・チ」
白人米兵はそう言って、自衛隊の隊長をハグしました。
自衛隊の隊長は、喜んでハグに答えていました。海外派遣の経験のある隊長さんなのでしょうか。ハグに慣れているようでした。
それから隊長さんは、わたくしのところへ来て、
「隊員たちに、トイレを貸していただけますでしょうか?」
と礼儀正しくおっしゃいました。
若い自衛隊員がカゴにおにぎりを入れていました。もう1人の自衛隊員は、ペットボトルのお茶をカゴ一杯に入れてレジに持ってきました。
「これ、お願いします」
と言って、隊長さんがクレジットカードで支払ってくださいました。隊長さんと、2人の若い自衛隊員は外へ出ていきました。
自動ドアが開いたとき一斉に発する声が聞こえました。
「自衛隊は憲法違反だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます