第8話 オーナーさまに優しくされるとわたくしは・・・
事務室にはオーナーさまがいました。
オーナーさまは、パソコンに向かって何かお仕事をしておられるようでした。
でも、わたくしが入ると、オーナーさまは仕事の手を止めて、椅子をクルリと回して、わたくしのほうへ体を向けました。
オーナーさまの頭髪には白いものが混じっていました。
「どうしたの?」
とオーナーさまは、まるで幼稚園児にでも話しかけるようにやさしく言ってくださいました。
「あの、すみません。少し、休んだら、また仕事に戻りますから・・・」
とわたくしは泣き声で答えました。
オーナーさまはそれ以上のことは尋ねませんでした。
たぶん、わたくしに気を使ってくださったのだと思います。オーナーさまはそうした細やかな配慮のできる人なのです。
オーナーさまは、聞き上手な人です。
人と話すときは、ちゃんと体を相手に向けるようにして、目の高さも合わせてくださいます。
相槌を打ったり、うなずいたりするタイミングも絶妙です。
ですから、お店で働く人たちは、みんなオーナーさまと話したがるのです。
ベトナム人のリエンさんは、オーナーさまがこの店に顔を出したときは、レジの担当だったとしても、お客さまが途切れたらすぐに駆けつけて自分のことを話しだすのです。
留学生ビザが切れそうだという話は大事ですから、たしかにすぐにオーナーさまに話さなければいけないことかもしれませんが、そのあとに、日本人の彼氏がデートに誘ってくれたのだが手も握ってくれないとか、最近太ってきたと思うけど見た目にどう思うかとか、仕事とは関係ないことを話すのでございます。
それをオーナーさまは嫌な顔ひとつせず、話を遮ることもせず、最後まで根気よく聞いているのです。
「続きは、勤務時間が終わってからじっくりと聞くから、事務室に残っていてね。コーヒーをおごるよ」
オーナーさまはそう優しく言うのです。
わたくしは、胸が熱くなるのを感じて身を固くしてしまうのですが、これって、どういう感情が湧き上がってきたということでしょうか?
わたくしには、夫がいますし、たぶん、心から愛しているのだと思います。
ということは、オーナーさまに抱いたわたくしの感情は何なのでしょうか?
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