第7話 わたくしはオーナーさまの胸で泣きました
わたくしは、オーナーの車に乗って、そのお客さまのところへ行きました。
お客さまの恐ろしい顔はいまでも忘れられません。
沖縄の伝統家屋の屋根に飾ってあるシーサーによく似た顔立ちでございました。
目玉が飛び出していて、口が大きいのです。
激しい剣幕で話す厚い唇の端からはヨダレがこぼれておりました。
そして、地獄の狼の咆哮のような恐ろしい声でございました。
もっとも地獄の狼に会ったことはございませんので、どんな声で鳴くのかわかりませんが、たぶん、あのお客さまの声に似ているのではないでしょうか。
わたくしは、そのお客さま宅の玄関先で泣いてしまったのでございます。
わたくしからお客さまに渡すように言われていたコーヒー無料券を差し出したのですが、声が出ませんでした。
「あう、あう・・・」
と鼻水をすすりながら嗚咽するだけでございました。
オーナーさまが
「これ、うちのお店で使えるコーヒー券です。ぜひ、またお立ち寄りください」
と無料券を10枚、わたくしから引き取ってお客さまにお渡しになりました。
帰りの車のなかで、わたくしは、オーナーさまの胸のなかで泣きました。
あのお客さまの顔が、いまでも、フラッシュバックとなってわたくしの脳裏に浮かんできては、わたくしを悩ますのでございます。
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