　それで、作業服のお客さまが

「お前、女かよ。男みたいだよな」

　と、おっしゃったのです。

そんなふうに、あからさまに言われたのは、はじめてでしたから、少々、気持ちが動転してしまいました。

怒りとも違うし、悲しみとも違うように思います。

この感情は何と表現すればよろしいのでしょうか。

わけもわからず涙だけがこぼれ落ちるのでございます。

店長のメイリンさまがすぐに気づいてくださいました。

わたくしの横に来て「大丈夫？」と言ってくださいました。

「ここは、私がやるから、事務所で休んでらっしゃい」

　とメイリンさまはおっしゃいます。

その優しいお言葉に、わたくしの涙がさらに倍増いたしました。

メイリンさまは台湾人です。

台湾では3回名前を変えていいそうです。

しかも、イングリッシュ・ネームを使う人も多いそうです。

漢字で書くと「陳美玲」となります。

イングリッシュ・ネームはアンナ・チャンというそうです。

メイリンさんの洗礼名がアンナで、わたくしと同じなのです。

わたくしの名前は杏奈と言います。

わたくしの場合、父がトルストイのファンで『アンナ・カレーニナ』からとった名前だと言っておりました。

ちなみに、旧姓は白川で、結婚して与那嶺になりました。

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