第6話 繋がらない記憶

 舞子は杏奈(アンナ)の手紙を読み返した。


 『こんにちわ。隣の杏奈(アンナ)です。最近、舞子を見ないので手紙しました。元気ですか。杏奈は元気だけど、この手紙はお別れの手紙なの。杏奈は明日この家を出て行くの・・・』


信子が大きな荷物を二階に運んでいる。


 「あら? ママ、私の前を通った?」

 「なに言ってるの。ヨイショ、ヨイショ、これパパの頼んだ画材なの」


舞子は信子の重そうに運ぶ荷物を見て、


 「ママ、手伝おうか?」

 「いいわよ。休んでらっしゃい」


二階の龍太郎のアトリエのドアーが、ひとりでに開く。

龍太郎の声がする。


 「おお、届いたか。やっぱり百号のキャンパスじゃないとこう云う絵は描けないな。・・・で、舞子は?」

 「ソファーで休んでいるわ」

 「会いたいなぁ」

 「まだダメよ」

 「ダメか・・・」


信子はアトリエのドアーを閉めた。

舞子がドアーをジッと見ている。

信子はまた階段の踊り場まで下りて来て、立ち止まった。

リサ(猫)が信子の脚に絡みついている。

舞子の顔をジッと見ているリサ(猫)。


 「ママ、私、疲れたわ」

 「そう。じゃ、寝なさい。ママは上の部屋に行くわ」


舞子はソファーに横になった。

階段の踊り場を見ると信子は消えている。


横になり杏奈の手紙をもう一度読み返しました。


 『なぜ? だって道が無くなっちゃうんだもん。みんな途中で切れちゃうの。こんな家に居てもしょうがないじゃない。もう二度と戻れないし、戻らない。だからこの手紙はさよならの手紙。 ・・・・ 二月二七日』

 「あら? 日にちがさっき読んだ時と違っている」


舞子の記憶が繋(ツナ)がらない。


 『みんな途中で途切れてしまう』


舞子は今日一日の事を振り返った。


 『バスを降りる。・・・道路を歩く。・・・道が行き止まり。・・・農夫に道路の事を聞く。・・・あそこに見える白い家に行きたい。・・・家は無い。・・・? 表面だけの家? ・・・アナタは誰? ・・・? ・・・一ヶ月前に出て行った。・・・出て行った。あそこの家に帰りたい。・・・後ろの無い家? 表面だけの家。・・・誰も居ない ・・・何処から来た? ・・・金沢の病院。・・・気おつけて。・・・気をつけて』


 「行き止まり? 家は無い? アナタは誰。誰も居ない? 一ヶ月前。でも私はここに居る。ママもパパもリサ(猫)も。杏奈は病気」


舞子は徐々に深い眠りについた。

                          つづく

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