第7話 歪んだ時計

 暫くして舞子は体に温かい物を感じた。

そっと目を覚ますと信子が舞子に毛布を掛けている。

舞子は驚いて、


 「あ、ママ! ありがとう」


毛布に包(クル)まり、振り向くと信子は居ない。


 「あら? ママ? ・・・ママ!」


リサ(猫)が階段の踊り場から舞子を見て居る。


 「リサ、ママは何処?」


リサ(猫)が階段を急いで駆け上がって行く。


 「あッ、リサ」


雨音が聞こえて来た。


 「雨?」


舞子は起き上り、トイレの窓から外を覗いた。

雨は降ってない。

海原でカラスとカモメが喧嘩している。

砂浜に打ち上げられた『壊れたヨット』。


 「止まっている。『景色の時間』が止まっている」


舞子は急いでトイレを出た。

リビングの大きな柱時計を見ると時計が歪んでいる。

振り子がゆっくり『念仏』を唱えている。


 「南無観世音菩薩・・・南無観世音菩薩・・・」


時計の針が逆に回っている。


二階から龍太郎と信子の声がする。


 「舞子は学校から戻ったのか?」

 「何言ってるの。今は夏休みよ。一ヵ月前に金沢のおばさんの所に泊まりに行わ」

 「ああ、そうだったな。あの子も大きく成った。一人で金沢に行くなんて」

 「アナタしっかりしてちょうだい。アナタが送って行ったのよ。舞子はまだ幼稚園生!」

 「あッ、まだ幼稚園生だったか。ハハハ。幼稚園じゃ大きい方だろう」

 「だって周りの子より五つも年上よ」

 「おッ、・・・信子、また家が揺れ出した。揺れてるぞ。揺れてる、揺れてる、家が倒れるぞ。ハハハハハ」


奇妙な会話だった。

                          つづく

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