第5話 声

 二階のアトリエから龍太郎の声がした。


 「舞子? 戻ってたのか」

 「パパだ! パパ、私、一人で戻って来れたのよ」

 「ホホ~、それは凄い。よく戻って来れたね。信子! オマエは迎えに行かなかったのか」


信子は龍太郎の『声』の方を見て、


 「だってアナタが居るし」

 「パパ、来て。顔が見たいの。ここに来て」

 「そうだね。ちょっと待ってくれ。今、手が離せないんだ。もう少しで完成するんだ」

 「・・・分った」


信子が階段の踊り場から舞子を見ている。


 「? ママ、何を見てるの」


信子は作り笑顔で、


 「大きく成ったわね」

 「なに言ってるの。ママ、おかしいわよ」

 「おかしい? だって久しぶりじゃない」

 「久しぶりって、三ヶ月しか経っていないじゃない。ママ、私ちょっとトイレに行って来る」

 「そう」


舞子はソファーを立ってトイレに行く。

トイレの窓から外を見た。

コバルト色の『能登の海』。

海原で「カラスとカモメ」が喧嘩している。

砂浜にはうち上げられた「壊れたヨット」が。


 『まるで時間が途切れている様・・・』


舞子は家までの「道」を覗いてみた。


 「・・・あら? 道が続いているわ。そんな・・・」


急いでトイレを出る。


信子が階段の踊り場から舞子を見ている。


 「どうしたの? そんなに慌てて」

 「え? あの・・・」

 「何?」

 「道が」

 「道がどうかしたの?」

 「道が・・・通じてるわよ」


部屋にチャイムの音が響く。


 「キンコ~ン」

 「あッ、ママ、お客様!」


階段を見ると信子は居ない。

玄関のインターホンから宅配人の声が聞こえる。


 「吉村さ~ん! すいません。お荷物をお届けしました」


ドアーが開く音。

信子の声がする。


 「ご苦労さま。サインで良いかしら?」

 「ハイ。・・・有難うございます」


ドアーが閉まる音。

                          つづく

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