第4話 杏奈の手紙

 舞子は暖炉の上の手紙を取った。

切手の貼って無い手紙・・・。

封を切って中の便箋を取り出す。

ソファーに座ってテーブルの上を見回した。

いつの間にかテーブルの上には「ケーキとミルク」が置いてある。

舞子は驚いて階段を見た。

信子は居ない。

リサ(猫)が階段の踊り場から舞子を覗いている。

舞子は信子を探した。

赤と黒だけの舞子の家。

シャンデリアの灯りが異様に白い。

潮騒の音が部屋を包む。

舞子はナイフでケーキを切る。

ミルクを一口飲み、便箋を開(ヒラ)いて中を見る。


 『こんにちわ。隣の杏奈(アンナ)です。最近、舞子を見ないので手紙を書きました。元気ですか。杏奈は元気だけど、この手紙はお別れの手紙なの。杏奈は明日この家を出て行くの。なぜ? だって道が無くなっちゃうんだもん。みんな途中で切れちゃうの。こんな家に居てもしょうがないジャン。もう二度と戻らないし戻れない。だからこの手紙はさよならの手紙。この間、舞子のママと会ったわ。やっぱり同じ事を言ってた。落ち着いたらメールするね。舞子、からだ大丈夫? 海が見える所に引っ越せれば良いけれどね。じゃあ、またいつか会える日まで。さようなら。元気でね。 3月27日 杏奈』


「三月?」


突然、信子の声が。


 「ど~お、美味しい?」

 「あ、びっくりした」


いつの間にか階段の踊り場に信子が立って居る。


 「ごめんなさい。パパが呼んでたの。・・・お手紙読んだ?」

 「うん。杏奈(アンナ)からよ。でもこの手紙、三月よ」

 「あら、三月だった? あの子、可哀そうなの」

 「え? どうかしたの」

 「入院したの。悪性の癌(ガン)ですって。若いから転移も早いし、半年位しか生きられないそうよ」

 「え、ウソ! 杏奈、引っ越したんじゃないの?」

 「引っ越し? 隣はまだ居るわよ。今朝(ケサ)、杏奈ちゃんのママと話したわ」

 「え~? ウソ~。・・・ねえ」

 「え? どうしたの?」

 「やっぱり道が無いんじゃない?」

 「何を言ってるの。湖(ミズウミ)が見える綺麗な道路が、無くなる訳が無いじゃない」

 「湖? ママ、海でしょう? 」

 「海?」

 「ママ、窓を開けて良い?」

 「なぜ?」

 「外が見たいの」

 「そこから見えるじゃない」


信子は龍太郎の描いた「窓の絵」を指さした。


 「あれは絵よ。外の景色が見たいの」

 「だめよ。もう少し良く成ってから」

 「何で? 私一人で家に戻って来れたのよ。もう治ったわ」

 「いいえ。一週間だけの仮退院よ」

                          つづく

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