第3話 螺旋階段

 家の門柱に吉村家(三人の名前)の表札が埋め込んである。

舞子は門扉(モンピ)を開け、ドアーをノックした。

・・・返事は無い。

ドアノブを回す。

施錠はされてない。

そっとドアーを開け、部屋を覗いた。

暗い部屋・・・。

室内灯のスイッチを入れる。

室内に明かりが点る。


二階の廊下に「女」が立って居る。


信子(ママ・吉村信子)だった。

灯りに照らし出され、顔だけが異常に白い。

信子は優しく微笑んで、


 「おかえりなさい。ごめんね、迎えに行けなくて」

 「良いわよ。ちゃんと一人で帰って来れたんだから。パパは?」

 「パパ? ああ、寝てるわよ。具合が悪いみたい。ちょっと呼んで来るわね」


信子は奥のアトリエ(パパの部屋)のドアーを開けて中に入って行く。


舞子は室内を見まわした。


 「あの時と変わってない」


壁には龍太郎(パパ・吉村龍太郎)の描いた赤一色の絵、『能登の夕日(二百号)』が掛って有る。


龍太郎は『輪島塗の下絵作家』である。


信子が龍太郎の部屋から出て来て、階段を降りて来た。

後を追うように白い猫(リサ)も降りて来る。

螺旋階段の踊り場に立ち止まり、


 「ごめんなさい、パパやっぱりダメみたい。何も話さないの」

 「そう。・・・良いわよ。どうせパパ、アタシのこと嫌いなんだから」

 「そんな事ないわよ。パパはアナタの事を一番心配していたの。アナタの事が大好きなの」

 「・・・道路が崩れていたわよ。大きな地震があったみたいね」

 「あら、そお」

 「えッ? ママ、知らないの?」

 「表に出ないから」

 「買い物は?」

 「全部、届けてもうの」


舞子はソファーに座って、


 「ねえ、ママ。此処に来て。聞きたい事が有るの」

 「何? 話して」

 「此処に来てよ。私もう治ったんだから」

 「だめよ、まだ。仮の退院でしょ」

 「あのね、この家って誰も住んでない事に成ってるみたい」


信子は笑いながら


 「誰が言ったの、そんな無いって言ってたわ」

 「そんな事ないでしょう。アナタはちゃんとこの家に戻って来たんだし、パパもママも、ほらリサだって此処に居るじゃない」

 「そうよね。おかしいわよね。私も此処に居るんだから」

 「あ、舞ちゃん? おなかが空いたでしょう。アナタの好きなケーキを焼いといたの」

 「え、本当! 嬉しい。何ヶ月ぶりかしら、ママの作ったケーキを食べるなんて」

 「舞ちゃんが元気に戻って来たら食べさせてあげようと思って」


突然、部屋の電灯が点滅し始める。


 「あら? どうしたのかしら」

 「だから外で道路工事してるみたい」


部屋の灯りが一斉に消える。

二階から龍太郎の怒鳴る声が聞こえる。


 「お~い! いいかげんしてくれないか。絵が描けないじゃないか」


暫くして灯りが点く。


 「・・・パパ、仕事してるの?」


信子は何かを隠すか様に、


 「え? あ、今、ベッドで寝て居たのに。おかしいわね」

 「ママ、上に行っても良い?」

 「だめ!」

 「私、二階に上がりたいの」

 「だめよ。二階はアナタにはまだ無理。上がれないわ」

 「えッ? なぜなの」


信子は急に話しを逸らし、


 「あ、そうだ。一ヶ月前にアナタに手紙が来てたわよ。そこの暖炉の上に置いてあるわ」

 「手紙?」

                          つづく

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