魔王ちゃんの下僕 ~番外編~

雨蛙/あまかわず

ユウとマルと腕輪と、なのだ!

「だから何回も言ってるだろ!俺から離れるんじゃない!」


「そんなの知らないのだ!ユウが吾輩から離れなければいい話なのだ!」


俺はこの魔族の少女、マルことマルリルにこの世界に召喚された。


そしてしもべの腕輪というものを付けられ、『吾輩のそばから離れるな』という命令によってこいつから離れられなくなってしまった。


もし逆らってしまうとお仕置きされてしまう。


だからいつもこんな風に言い争っている。


「はぁ…なんでこんなめんどくさい命令したんだよ」


「あの時ユウが勝手にどっかへ行こうとするからなのだ」


召喚された時の事、気がついたら目の前に謎の少女がいて、急に『吾輩の下僕になるのだ!』だとか『魔王になる手伝いをするのだ!』だとか訳の分からないことを言っていた。


理解の追い付かなかった俺はほかの誰かに助けを求めるために洞窟の外に出ようとした。


「なんの威厳も威圧感もない子どもが変なことを言っていたらただのいたずらだと思うだろ」


「吾輩は子どもじゃないのだ!吾輩は立派な魔族で魔王になるものなのだ!威厳がないはずないのだ」


改めてマルをまじまじと見るがいつ見ても6歳程度の子どもにしか見えない。実年齢も18歳でたいして大人というわけでもないけどな。


「それにしても吾輩たちはどこに向かってるのだ?」


「なんで聞いてないんだよ。廃村の謎を解決しに行くんだよ」


俺たちは今、ギルドからの指名により廃村の調査に行くことになった。


その廃村の近くを通った人は消えていくらしい。だから原因を突き止め、解決するのが今回の仕事だ。


この腕輪の力を使って解決してくるようにと言われた。こんな面倒なものが役に立つなんてな。


巷では神隠しだとか廃村にいる幽霊に呪われたとか噂されている。


「多分あれじゃないのか?」


しばらく歩いていると噂の廃村が見えてきた。


手入れのされていない気に覆われ、背の高い雑草が生えたままになっているせいでいい感じの雰囲気が出来上がっている。


「こんなところに入っていくのだ?吾輩行きたくないのだ」


「俺だってやだよ。でもこのまま帰っても恐ろしいことが待ってるだけだ」


このまま道に沿って廃村の中に入っていった。


辺りを注意しながら村を回ってみる。見た感じ怪しいところはないな。




ヒュー…カンッ!




「いてっ!」


頭にたらいが落ちてきた。これは命令を無視したときのお仕置きだ。ということはマルが俺から離れてしまったということだ。


すぐに周りを見渡してマルを探す。


見つけた!闇の中に引きずられている。


「待て!」


急いでマルを追いかける。マルが引きずられていった先はボロボロになった教会だ。


マルは講壇の前でロープでぐるぐる巻きにされていた。


「マル!大丈夫か?」


「ん、んー!」


マルは口にまでロープをまかれていて話せないようだ。


「待ってろ、今助けるからな」


「おやおや、そうはさせませんよ」


天井から人の形をしたクモの化け物が下りてきた。


「せっかくいい獲物を手に入れたのに、余計なものがついてきちゃったわ」


「誰だお前だ。こんなところで何をしている」


「私はデイズ・ノレグと言います。いい狩場がありましたのでここで狩りをさせていただいています」


「狩りだと?ここで消えた人たちはどこにやったんだ」


「その者たちはすでに奴隷として販売させてもらいました」


こいつ、なかなかな悪党だ。今までばれずに誘拐しているから手練れなんだろう。


「まさかこんな獲物を捕まえることができるとは。いくらで売れるのか見当もつきませんね」


まさかマルも売るつもりなのか。


「それにしてもよく私の仕業だとわかりましたね」


「俺はこの腕輪のせいでそいつから離れられないからな。そいつを連れて行こうものなら、もれなく俺もついてくるぞ」


「見た感じあなたは売れるような人ではありませんね。では取引をしませんか?その腕輪はあなたにとって邪魔なものでしょう。あなたがおとなしく帰ってくれるのであれば私が取ってあげますよ」


「なんだって?」


この何度も苦しめられてきた憎き腕輪から解放されるのか?


「…ぷはっ!何悩んでるのだユウ!早くこいつをボコボコにするのだ」


「もうロープが緩んでしまいましたか。さすがですね。早く話をつけてしまわないと。さあ、どうしますか?」


「…そうだな。その方が楽だ」


「なに言ってるのだユウ!早く剣を持つのだ!」


「では私にその腕輪を見せてください」


「やめるのだ!」


俺はデイズに近づき、左手を前に出す。そのまま手のひらを顔に向ける。


「マジックショット!」


デイズの顔面に向けて魔力で出来た球を打ち出す。クリーンヒットしたデイズは後ろに吹き飛んだ。


今のうちに持っている短剣でマルのロープを切る。


「な、何をするんです!」


「確かにこの腕輪は邪魔だけどな、友達を手放すような真似はしない」


解放されたマルは俺に抱き着いてきた。


「何やってるのだ。ユウがどっか行っちゃうと思って怖かったのだ」


「悪かったな。隙をつかないとお前を助けられないと思ったからな」


俺はマルの頭の上に手を置いた。


「この腕輪はエルフでも取れないようになってるんだ。お前なんかが取れるわけないだろ」


「私が下手に出ていたのに、このありさまとは。絶対に許しませんよ。あなたは私が一生奴隷としてこき使ってあげますよ」


デイズは怒りで顔が真っ赤になっていた。


「さあマル、とびきりのやつをお見舞いしてやれ」


「お前は絶対に許さないのだ」


マルは距離を取り、魔力を高め始めた。


「吾輩に集いしこの魔力よ、吾輩のめいに従い、吾輩に力をもたらせ。地獄の中で燃え盛る炎は命をも焼き尽くす、最期のぬくもりとなろう!」


「させませんよ。バインドネット!」


デイズがマルに向かって網を飛ばしてきた。あれでまた拘束するつもりだ。


俺がマルの前に立ちはだかり、身代わりでデイズの技を受ける。体に巻き付いたロープは力強く締め付けてくる。


「くっ…!やってしまえ!」


「ヘルフレイム!」


マルの出した黒炎がデイズの体を覆う。炎の中にあるデイズの影は苦しみの声と共に消えてしまった。


「さすがにやりすぎじゃないか?」


「そんなことないのだ。あいつは吾輩を怒らせたのだ」


マルはフンッと鼻を鳴らす。俺は苦笑いしながら力が弱くなったロープを解く。


「それからユウもなのだ。変な嘘で吾輩を心配させたのだ」


「だから悪かったって。俺にはああするしかなかったんだ」


「お前は吾輩の下僕としてこき使ってやるのだ。何があっても絶対に手放さないのだ」


「はいはい、どうせ俺はお前の下僕ですよ」


「…だからユウも吾輩のことを手放さないでほしいのだ」


マルはまた悲しい顔に戻った。よほど俺がいなくなることが怖かったんだろう。


「よく勝手にいなくなるくせによく言うよ」


「下僕のユウが吾輩についてこれないのが悪いのだ」


「お前についていったらろくなことがないだろ」


またきりのない言い合いが始まってしまった。


この腕輪のせいで、いや、この腕輪のおかげで始まった異常な日常。

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