【KAC20245】私を離さないで

青燈ユウマ@低浮上

熱い口づけ

 俺が大学から帰ると、家のリビングで妹の美野里ミノリがテレビを見ていた。


「何それ、YouTube?」

「うん。ちょっと話しかけないで」

「ごめん」


 両親は外出しているため、美野里は我が物顔でリビングを占拠し、ポテチを食べながら恋愛ドラマを見ている。


 俺が手を洗ってリビングに戻ってくると、ポテチを食べ終えた美野里が、口を両手で覆い目を潤ませながらテレビを凝視していた。

 画面に目を向けると、ちょうど告白のシーンのようだった。端正な顔立ちの若い俳優が、夜の公園で、目の前の女性に愛を力強く訴えている。


さくら、ずっと今まで桜の気持ちに気付かなくてごめん! これからはもう迷わない! 桜だけを見続けるよ!」

あきら! ……嬉しい。もう私を離さないでね」

「ああ! 一生離さない!」


 明が桜を力強く抱きしめる。それから明と桜は互いを熱の籠もった瞳で見つめ合った。ゆっくりと二人の距離が近づいていく。このままキスをするのだろう。

 妹は「あぁ……」と声を漏らして、顔を紅くしながら見つめていた。



 その時だった。




「爆天カードマーーーーン!!!!!

いきなりですが、今だけポイント100倍!!! 

いいんでしょーか!!??

いいんです!!!!」


「は、はあーーーーー!!??」


 美野里が叫んだ。口元を覆っていた両手を左右に開いて、大げさに驚く外国人みたいなポーズになっている。


 口を開けて目を見開いた美野里の間抜け面に、俺は大笑いした。


「笑うな!! あー、もう!! いいとこだったのに!! スキップできないし!!」


 CM中にイライラしながら、リモコンを回すように振っている。


 数秒後、CMが終わって熱いキスシーンが流れた。


「……」


 美野里はすっかりテンションが下がってしまい、呆けた顔でそれを見ていた。


「お兄ちゃん、爆天カードやってんだっけ?」

「うん。爆天市場、めっちゃ使ってる」

「じゃあ、お客様のお問い合わせで、ドラマの途中でCM流さないでって言っといて」

「無理だろ、そんなの」



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