第34話 散策の後
車椅子が出来た事で、お祖父様は寝たきりの生活から開放された。
その日の夕食はお祖父様は車椅子で食堂まで来て、私達と一緒に食事を取る事になった。
私がこの屋敷に来てお祖父様とこうして食事を取るのは初めての事だ。
私達が先に食堂で待っていると侍従に車椅子を押されてお祖父様が入って来た。
上座に車椅子を停めると両脇に座る私達を交互に見てニコニコと相好を崩す。
「やはりこうして皆と食事が出来るのは嬉しいな。ベッドで一人きりで食事を取るのは何とも味気なかったからな。ジェシカ、ありがとう」
「いえ、私もこうしてお祖父様とお食事が出来るのは嬉しいです」
普段は会話もなく進められる食事も、この日はお祖父様が色々とお話をしてくださって和やかな雰囲気だった。
ただ、お祖父様は寝たきりで食が細くなったらしく、あまり多くは食べられなかったみたい。
これから少しずつでも外に出る機会を増やせば、もっと食べられて体力も回復していくかしら?
ある程度、お祖父様が回復したら私はこの屋敷から逃げ出さなくちゃね。
だけど、よく考えたら門には見張りの人がいるし、使用人達もいるからこっそり抜け出せそうにないわね。
理由をつけて外出した際に姿をくらませるのが一番かしら?
夕食を終えて自室に戻ると、私はこの屋敷を出た後どうやって生活して行こうかと考えていた。
住む所も働く場所も探さなくてはいけないのに、着のみ着のまま出て行って生きていけるのかしら?
それに私がこの屋敷から出ていったらお祖父様はまた私を捜そうとするかしら?
お義母様とハミルトンは私が居なくなったらせいせいするのかしら?
ふとハミルトンの顔を思い出して、ドクンと胸が跳ねる。
身分が違うんだから好きになっちゃいけないのに、そういう障害が余計に恋心を燃え上がらせる。
ハミルトンは私の事を妹のジェシカだと思っているのだから、好きになってくれるはずなんてないのにね。
ハミルトンの事なんて考えていないで、これから先の事を考えないとね。
とりあえずは孤児院に行って匿ってもらうのもアリかもしれないわ。
子供達の世話を手伝うと言えば、しばらくは孤児院に置いてもらえるかも…。
私はそう考えをまとめると就寝の準備を始めた。
翌朝、目を覚まして身支度を終えて食堂に向かうと、既にお祖父様が上座で待っていた。
「おはようございます、お祖父様。お待たせしてしまったかしら?」
「おはよう、ジェシカ。大丈夫だ。私が早く目が覚めてしまってね。少し早目に来てしまったんだ」
確かにお祖父様は昨日よりは血色が良いみたい。
お祖父様と話しているうちに、お義母様とハミルトンも食堂に顔を出した。
「おはようございます、お義父様。今日は顔色がよろしいですわね」
「おはようございます、お祖父様。随分と元気になられたようですね」
本心なのか、取り繕った言葉なのかはわからないけれど、そんなにギスギスした関係じゃないみたいね。
食後のお茶を飲んでいるとお祖父様が私に声をかけてくる。
「ジェシカ。この後、一緒に庭を散歩しないか?」
「勿論ですわ、お祖父様」
ニッコリとお祖父様に笑いかけると、何故かそこにハミルトンが割り込んできた。
「お祖父様、僕もご一緒していいですか?」
…何故、そこでハミルトンが一緒に来ようとするのかしら?
私が断る訳にもいかないので、黙ってお祖父様の言葉を待っているとお祖父様はニコニコとハミルトンに笑顔を向ける。
「ハミルトンも一緒に来るのなら歓迎するぞ。散歩は大勢が一緒なら楽しいだろう」
お祖父様が快諾したので、私が口を挟む事ではなくなった。
そのままハミルトンと一緒にお祖父様の車椅子の後を追って庭へと降りて行く。
しばらく散策をした後で屋敷の中へと戻り玄関ホールに差し掛かると、突然扉が開いて誰かが入って来た。
その人の後を慌てたようにモーガンが追いかけている。
…あら、若くてハンサムな人ね。どことなくハミルトンに似ているような…
その人物は私の前に来るとニコリと笑って手を差し出してきた。
「君がフェリシアかい? 迎えに来たよ、僕の妹」
えっ、誰?
どうして私の本当の名前を知っているの?
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