第33話 車椅子の完成
ポロック商会が到着したという知らせを受けて私は応接室へと向かった。
中に入ると既にお義母様とハミルトンがワクワクとした表情で待っていた。
その向かいで困惑した顔で座っていたポロック商会の二人が、私を見た途端にホッとした表情を浮かべる。
「お待たせして申し訳ありません、お義母様、お兄様」
挨拶をしながらソファーをチラリと見ると、空いている席はハミルトンの隣りしかなかった。
お義母様は当然のように一人掛けのソファーにゆったりと座っている。
…イヤじゃないけど、なんだか気恥ずかしいわね。
ちょっと間を空けてハミルトンの隣に腰を下ろす。
私が座るとすぐにポロック商会が車椅子を出してみせてくれた。
細かく指示を出した部分も修正されて、非常にいい出来栄えになっている。
「まあ、これが車椅子なのね。早速お祖父様に使っていただきましょう」
お義母様の鶴の一声で、すぐにお祖父様の部屋へと移動する。
お義母様はハミルトンにエスコートされてお祖父様の部屋へと向かった。
お祖父様はベッドに起き上がっていて私達が来るのを今か今かと待っていたようだ。
「お祖父様、こちらが車椅子です。座ってみていただけますか?」
お祖父様は数人の侍従に抱きかかえられるようにして、ベッドから車椅子へと移動した。
「これはなかなか座り心地のいい椅子だな」
お祖父様は車椅子に座った状態で、あちこち触っていたが、やがて一人の侍従に声をかけた。
「せっかくだ。このまま庭へと出てみよう。そこの君、押してくれ」
声をかけられた侍従は恐る恐る車椅子の後ろのハンドルを両手で握ると、ゆっくりと車椅子を押し始めた。
車椅子は侍従に押されて滑らかな動きで少しずつ動き出す。
別の侍従によって開けられた扉から廊下に出ると、そこから中庭へと通じる扉に向かう。
そちらの扉も先回りした侍従によって開け放たれ、車椅子はスロープをゆっくりと降りて行く。
お祖父様は庭に降りると子供のようにはしゃいだ声をあげる。
「おお、こうして庭に出るのはいつ以来になるのか。このように自分で歩けなくても外に出られるというのはいいものだな。なんとも気持ちがいい」
お祖父様は後ろの侍従に指示を出して庭のあちらこちらを散策し始めた。
お義母様とお兄様はニコニコとその様子を嬉しそうに見守っている。
「ジェシカ、ありがとう。あのままベッドに寝たきりで朽ち果てると思ったていたが、こうして外に出られる事が出来てとても嬉しい。ラモーナには申し訳ないが、私はまだまだあちらの世界には行かれそうもないな」
「お祖父様のお役に立てたのならば良かったですわ。お祖母様には寂しい思いをさせてしまいますが、お祖父様にはまだまだ長生きしてもらわないといけませんわ」
こうして外に出るようになれば気も紛れるし、車椅子でなく自分で歩きたいと思うようになるかもしれない。
お祖父様と話していると、ポロック商会のレイモンドさんがおずおずと切り出した。
「ジェシカ様、こちらの車椅子を商品として販売したいのですが、許可をいただけますか?」
ん?
どうしてそこで私の許可が必要になるのかしら?
作ったのはポロック商会なのだから、勝手に販売すればいいのに、と思っていたが、どうやら私が発案者になるらしく、販売には私の許可が必要らしい。
自分達で開発した事にすればいいのに。と思ったけれど、私が公爵家の人間だからそういう訳にもいかないみたいね。
だけど、いずれこの屋敷から逃げ出そうと考えている私が、発案者として許可してもいいのかしら?
チラリとお義母様に目をやると、ニッコリと微笑まれた。
「ジェシカ、遠慮はいらないわ。あなたが考えたのだから最後まで責任を持ちなさい」
「わかりました、お義母様。その代わり報酬は公爵家に支払われるようにしてくださいね」
そう提案したら驚いた顔のハミルトンが目に入ったのだけど、どうしてそんなに驚いているのかしら?
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