十でメスガキ、十五で清楚、二十過ぎれば俺の嫁

蹴神ミコト

十でメスガキ、十五で清楚、二十過ぎれば俺の嫁



 マンションの隣の部屋には5歳下の、今10歳の女の子がいる。

 5歳下ともなると幼馴染と呼んでいいのか微妙に迷うラインだが小さい頃から知っている妹のような奴である。名を菅木芽衣(すがきめい)という。


 ある雨の日だった、俺は高校1年になったばかりで部活も決まっておらず6限が終わるとすぐに昇降口へ向かった。

 朝は晴れていたのに夕方にはざあざあ降り。天気予報でもしっかり午後は雨の予報だったが傘を忘れたクラスメイト達がちらほらいたので変に絡まれる前にさっさと帰ることにしたのだ。



 傘をさして学校の外へ出る。校門を出て通学路を徒歩で帰宅。マンションのエレベーターで5階へと上がり我が家の玄関へ…いくその1つ手前。隣の家の前でずぶ濡れになってしゃがみ込む芽衣がいた。

 俺が慌てて駆け寄ると俺に気づいてパッと顔を明るくするが、余程疲れたのか元気のない顔をしていた。ツインテールもびしょ濡れでヘタっていた。



「…あ、お兄さん…傘忘れちゃって…今日、パパママ居ないのも忘れて鍵も忘れちゃって…」

「踏んだり蹴ったりじゃねぇか…俺の家へ来い!」



 妹分の手を握り我が家へと引っ張り込む。



「今すぐ湯船に入れてやりたい所だけどあと10分ちょっとかかる。服を脱いで体を拭いてこれ以上冷えないようにしよう」

「女の子を家に連れ込んですぐ脱がすとかこれだから童貞は…」

「お前余裕出るの早すぎない?」



 放って置けば風邪をひく状態なのに家の中に入れて安心したのか余裕ムードを出す10歳メスガキ。だけど寒さも冗談じゃすまないのか言われたとおりに俺の前で服を脱いで体を拭き始める。



「あとはバスタオルを体に巻いて湯船が出来るまで待っててくれ。ほら熱めのコンポタ。お前がギリギリ飲めるくらいの温度に調整してあるからすぐ飲め」

「コンポタとかお兄さん張り切ってるの?白湯でもいいのに」

「濡れて1人寂しく体育座りしてた妹分を慰めるには白湯じゃいかんだろう」

「ふ~ん、カッコつけめ」



 コンポタが美味しかったのか芽衣の疲れた顔に少し笑顔が浮かんだ。



テンテロテリリリー♪



「お風呂出来たね。お兄さん一緒に入ろ?」

「いいけどお前は男と風呂入るのにまだ抵抗無いのか?」

「えーお兄さんって私を女の子って意識しちゃってるの?ロリコン?まあ10歳なら普通にお父さんとお風呂入る子も多いよ」

「そんなもんなのか。じゃあ一緒に入るか。冷えたろうからちゃんと長めに浸かるまでは出さないからな」


「…私はお父さんとは嫌だけどね」



 ぼそっと芽衣のつぶやきが聞こえたけど芽衣のお父さんが可哀そうな情報だったので聞かなかったことにした。





「はー生き返った!お兄さん体拭いてー!」

「はいはいこの甘えん坊め。股だけは自分でやんなさい」

「やっぱり意識しちゃってる?ロリコンの童貞さん?」

「俺が今拭くと5年後くらいにお前がめちゃくちゃ後悔するけどそれでもいいんなら拭くが?」

「そんなの知らない。いいから拭いちゃってよ」

「はいはい」



 芽衣の体を拭いてやって髪を梳かしてやる。姉の櫛だけど怒られないだろうか。衣類は仕方ないので俺の服を着せているけど高校生の服はさすがに大きすぎるのでだいぶダボダボして袖をこれでもかと捲っていた。



「ゲームしよっ?お兄さんえろげー持ってる?」

「俺15歳だから持ってるわけないだろ。ウィンテンドーウィッチにしときなさい」



 ゲームに夢中になって完全に元気が出たのかその後はずっと楽しそうに笑っていた。でも体力は無かったみたいで20分もせずに俺に寄りかかるように寝てしまった。

 起こしては悪いのでそのままにしたけど、湯上りの子供は体温が高くて俺もいつのまにか眠ってしまった。









 俺は大学2年生、芽衣も15歳の高校生になった。

 芽衣の文化祭に俺は1人で向かった。友達がいないわけじゃない、芽衣に1人で来てくれと言われたからだ。


 数年前まで通っていた母校の門をくぐり芽衣の1年C組へと向かう。やっていたのはメイド喫茶だった。

 俺の代は全クラスがメイド喫茶を希望したせいでその年からメイド喫茶が禁止になったのだが…この5年で復活したらしい。

 メイド喫茶の、芽衣のクラスの扉をくぐるとタイミングよく芽衣メイドverが目の前にいた。



「お帰りなさいご主人様…お兄さん来てくれたんですね」

「芽衣に呼ばれたらそりゃ来るさ」

「ふふっ、お席へご案内しますね」



 芽衣に案内された席で芽衣が注文を取る。



「こちらがメニューとなっております。今のオススメはオレンジジュースですね」

「オススメの理由は?」



 そう聞くと芽衣は俺の耳元に口を寄せ、耳に息がかかる距離でそっと教えてくれる。



「…オレンジジュースが売れ残りそうなんですよ」

「ははっ!じゃあオレンジジュースを頼む」

「承りましたご主人様。少々お待ちください」



 厨房スペースへ引き返していく芽衣を見ていると色々感慨深くなってくる。文化祭とはいえ給仕の真似事ができるくらい大人になったんだよなぁと。

 しばらくして戻ってきた芽衣はメイド服から制服に着替えており、オレンジジュースを両手で2つ運んできた。そして俺の隣に座った。



「お待たせいたしました。オレンジジュースとメイドさんのお持ち帰りコースになります」

「メイドさんじゃなくて着替えたら芽衣さんだろう。クラスの出し物はいいのか?」

「元々、お兄さんが来たらその後は遊んできていいって約束だったんですよ。代わりにメイド服を着てくれって男子に押し切られまして…」



 高校生になり身内びいきかもしれないが芽衣は美少女に育った。黒のさらさらなセミロングが綺麗系の顔に似合っている。

 そんな彼女のメイド服を見れるならたとえ一瞬でもいいと男たちに思われたのだろう。芽衣の評価が高くて嬉しいやら、男子から人気でモヤモヤするやら複雑な気持ちだ。



「美少女になったよなぁ」

「ふふふ、惚れてしまいますか?」

「甘えん坊で口だけ生意気で、10歳のお風呂後にどこ拭かせたっけなぁ」

「それは禁句ですよお兄さん!!何回ネタにするんですかもう!」



 お前がそんな反応をするのを見ると、もう子供じゃなくて女なんだって実感するからついなぁ。



「メイドさんお持ち帰りコースは高くつきますよ。なんとこの後文化祭は全てお兄さんの奢りになってしまいます」

「どこまで持って帰っていいの?家まで?」

「…家で止まるなら可です」


「ベッドまで持ち帰っちゃいそうだから駄目だな」

「――!ばか、もう、お兄さんのばか!そういうのセクハラですよ!」

「俺が高校生の時は誰かさんに童貞って言われ続けてなぁ…」

「うぐっ、言葉の意味は知っていたけど恥ずかしさを知らなかったんですあの頃は…」



 1年C組メイド喫茶を後にし芽衣と文化祭をうろつくが…ずいぶんと男子生徒からこちらを見られる。



「芽衣、お前人気者すぎやしないか?」

「人気者で困っちゃうんですよ、告白断るのにとてもエネルギー使うので…」



 好きな人とかいないのか?って聞いてしまいそうになるが嬉しくない言葉を聞いてしまったら嫌なので聞けなかった。だから――



「ひゃ、お、お兄さん?」

「嫌なら嫌と言ってくれ」

「……いえ、その…手を繋いでもらえて…う、嬉しいです…」




 芽衣と手を繋いで学校中を歩いてやった。どういう意図で手を繋いでいるのかちゃんと伝わるだろうか。芽衣がドキドキしてくれているのは分かる、問題は俺の気持ちが伝わっているかどうかだ。



「おいそこの大学生!女子高生のそれも1年目に手を出すのか?」


 ニヤけながらやってきたのは俺の元担任で、芽衣の現担任。元担任にも芽衣にも聞こえるようにはっきり言ってやろう。




「5歳差くらい結婚したらよくある話でしょう?」



 言ってしまったが繋いだ手は離れなかった。





 文化祭が終わり自由参加の後夜祭は外でキャンプファイヤー…は雨で中止になった。文化祭の片づけは後日にやるので芽衣と一緒に帰れる。



「芽衣、傘は?」

「…忘れちゃったから入れて」



 芽衣のカバンから折り畳み傘の取っ手が一瞬見えたけど気のせいだったことにした。



「俺の傘もそこまで大きくないから身を寄せ合わないと濡れるけどいいのか?」

「い、いいの!」



 傘の中で横から優しくぎゅうっと包み込むように密着してくるのがあまりにも可愛くてベッドまで持ち帰ろうか真剣に悩んだけどギリギリ俺の理性は勝った。

 理性が負けていた誰かさんに「ずっと好きだった」と言われながら押し倒されるまでは理性勝ってたんだけどなぁ…







 社会人になって3年目。俺はどこにでもいるサラリーマンになっていた。

 仕事終わりに電車に乗ってすぐ雨が降ってきてしまった。窓を濡らす雨を見て思い出すのは濡れて独りぼっちになっていた子供の芽衣。あの頃は妹分だったな。

 彼女になった日の高校生の芽衣。文化祭の次の登校日にホームルームで「大学生の彼氏は元気か?あいつ私の教え子なんだよ」と担任に言われ恥ずかしかったけど告白が激減してラッキーだったと言っていた。

 

 もう1つ思い出したことがある。俺は今日傘を置いてきたということだ。芽衣に持ってけと言われたけど慌ただしく出社してしまい玄関に折り畳み傘を置きっぱなしにしてしまった…


 自宅最寄り駅まで帰ってきたが傘が無い。家まで徒歩10分とはいえさすがに傘が無いと厳しい。駅の外に出てダメそうだったら傘を買うか。




「忘れ物ですよあなた」




 黒髪ロングの美人が駅で俺を待ってくれていた。

 2人で帰るのに傘は1つ。俺の肩に寄りかかるように芽衣に腕を包まれ指を絡められた。


 雨の思い出に、迎えに来てくれた嫁の芽衣が増えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

十でメスガキ、十五で清楚、二十過ぎれば俺の嫁 蹴神ミコト @kkkmikoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ