ＴＳ娘は「はなさない」

「はなさない」で

　わたし、ＴＳ娘の中島しのぶと申します。

　女子化の要因――トリガー――はネイルを塗ることで、ネイルサロンの店長をしています。

　ネイルオフすれば男性に戻る、可逆性のＴＳ娘だったんですけど――。

＊

　先日、母校の私立ＴＳ学園で更新手続きと検査を受けました。

　本当はその翌日に、一条教授――変人というかマッドサイエンティストです――から検査結果を聞くはずだったんですけれど……教授の莫迦噺でわたしが呆れ返ってしまい、聞かずに帰っちゃったんです。

　そして今日こそちゃんと検査結果を聞こうと、お店をチーフに任せ大学の生体検査室を訪れたんです。

「中島さん、自分でも気がついていると思うんだが……検査結果から導き出されたことを話そうか」

　教授は少し話しにくそうです。

「へ、変な話、しないでくださいよ……」とは言いつつも、わたしにも実は心当たりがありました――ネイルオフして男に戻る時間が年毎に長くなっていることです。

「中島さんが初めて女子化したのが高校２年のとき。それから継続的に女子化して年次検査をするようになって12年……」

「はい」

「先日の結果なんだが……女子化完了までの時間が、継続検査初回より12年間で126秒」

「……はい」

「そして男子化完了までの時間は、同じく12年間で320秒伸びておる」

「わたしも少〜し長くなったかなとは感じてますけど、自分では計らないですし……」

「わしが憂慮するのは女子化完了迄と男子化完了迄の時間が、この12年間で増加していて男子化の時間が女子化のそれと比較して、約2.5倍となっていることだ」

「へ、変なこと言わないでくださいよ……憂慮だなんて」

「加齢や代謝量の変化の可能性は否定できないが……いずれにしろ近い将来、女子化後に男子化できなくなる可能性があると……」

「や、やだなぁ、教授！　そんな話、わたし信じませんから！　そんな話しないで！　もしこのまま女子化固定しちゃったら、ラムが離れていっちゃう！」

　ラムとはわたしが最近付き合い始めたお店のチーフで、愛弟子でもあるんです。

「まだ男でいたい！　わたしとラムを離れさせないでください！　離さないで〜！」

「いや、これは確実に近い将来、時期は特定できないが女子化の確率はほぼ100パーセントと予見されたことで……」

「もう話さないで！」

＊

　噺さないで！

　話さないで！

　放さないで！

　離さないで！

　わたしは生体検査室を出て、店には戻らずに帰宅しました。

Fin.