ヴァレンタイン、恋の七不思議に落ちた

アールケイ

〈前編〉 バレンタインに巣くう少女

 この世界には噂話がはびこっている。

 それには真実と嘘が混じり、もはや一見しただけではわかりようがない。だから見聞きしたことに確証をもたない者はこう言うのだ。


『本当かどうかわからない、ウワサみたいなものなんだけどね』


 その言葉を聞いた者は、そのあとの話を鵜呑みしないながらも、興味を引く話題であれば次から次へとその話をする。そうして話は広がり、噂が完成する。

 ところで、これもそれの一つに過ぎないのだけど、少年──水鴨秋葉みずかもあきはは恋をしていた。

 時はくしくもバレンタイン前日。チョコを貰えるのだろうかとソワソワとする面持ちで、ベッドに身を投げている。

 その答えは非情にも、24時間以内に明かされてしまうというのに、今か今かと待ち遠しかった。

 なんてことを思っている間に、少年は眠りについてしまうのだった。


  教室の一室、そこには少年と少女が他愛ない話で盛り上がっていた。


「なあ、知ってるか? この学校の七不思議」


「七不思議なのに八も九もあるんだよね」


「そう、それ」


 ふと瞬間に見せる彼女、白羽詩葉しろはねうたはの笑顔に俺は思わず頬を赤らめる。情動とはときに無粋だと、そう思う。

 けど、俺は気にせず続ける。


「なんでか知ってる?」


「えっ? うーん。なんでだろう」


 彼女には珍しく答えに悩む。詩葉うたははそういう噂話が好きなのだ。特に、七不思議などの怪異が絡むと必ず食いつくほどに。それだから、俺がこうして話を振ると決まってこう言っていた。


『愚問だね。私はその答えに先にたどり着いていたよ』


 そんな彼女の決めゼリフが少し好きで、こうして放課後に集まるときは、最初に噂話を、それも怪談、怪異の関係するものを好んで話の種とした。

 それは見事な花を咲かせ、幸福の時間を過ごすことができる。

 けど、今日は珍しく答えが違った。聞いたことがないのか、首を傾げている。


秋葉あきはくんは知ってるの?」


「それこそ愚問だね」


 彼女の決めゼリフを少し借り、そのつけとして恥ずかしさを被る。彼女は少し微笑みを見せるも、すぐさま思考しだす。

 そんな彼女の表情に、どこか懐かしさを覚える。それはなんだったか、彼女と同じように思考の海へと飛び出すことにした。

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