第11話 メレウトの生活(2)
齧歯類の妖怪の行商人達は5人ほどでまとまって来ていた。
遅まきながら
全員、紺色か鼠色の羽織だったり半纏だったり、動きやすい和装の上着を着ている。その下には浴衣のような着物を着ているようだった。中には兎やハムスターの短足に袴らしき衣装をはいている者もいた。
そして全員、
行李。
行李を背負って来たらしく、その滅多に令和時代では見かけない竹で編んだ大きな箱の中から様々な食料や日用品を出して、大きな風呂敷の上に広げているのだった。
兎やハムスターと言っても、最初は着ぐるみと思ったのだから、普通の人間の女性ぐらいの体格は持っている。
(なるほど、これが妖怪か……?)
思わずしげしげと観察してしまう
風呂敷や開かれた行李の上には、新鮮な食品や新しい衣服、それにコマゴマした日用品などが並べられてあった。後は、コンビニやスーパーでも見かけるようなよくあるカタログが数冊、重ねられてあった。
一方、
齧歯類とはいえ、妖怪達は計算高い上に薬品などの知識も相当あるらしく、
だが、最終的に、
(!!?? 妖怪が、令和の人間の金を使うのか……?)
驚いていると、妖怪達の方から話しかけてきた。
「私達は文殊屋ってもので、メレウトさんとは三百年の昔からのおつきあいなんですよ……新入りさん、これからもよろしくお願いします」
「話す兎なんて初めて見た……よろしくな。俺は、……
自分の本名を教えるのは危険だと、散々、
「よろしく、
齧歯類は機嫌良さそうに、
うまく言えないが、漫画に出てくる大阪の
飴を貰って、挨拶までされた手前、
かわりに
やり方次第では、外部に応援を頼めるかもしれない。
無論、そのためには
「ありがとうございます~」
少額でも売り上げがあると本当に嬉しいらしい。
一斉に満面の笑みになる齧歯類達。
それを背にして、
食堂では、
メレウトでは、料理当番、掃除当番、畑当番……などと全ての家事や業務が曜日ごとの当番制になっている。
バイトのシフト制に少し似ているようだ。週の頭までに執事の
その当番をしなくていいのは、Ladyだけで、
今日は、
草むしりは草むしりで、手動でやった分、だいぶ体がくたびれた。
手伝って貰った手前、農作業の道具の片付けぐらいは自分でやると
「お疲れ様。午後からも、大変だと思うけど頑張ってね。これ、サービスだよ」
「……ありがとうございます」
微妙に子ども扱いを感じて、複雑な表情になる
だが、空腹で、甘い物が欲しかったのは本当だったので、拒否はしないで
「
「ああ」
「また、本名を名乗ったりしていないだろうな?」
「……」
「みんなに何回も言われているからな。
「お前にはまだわからないかもしれないが、名前というのはそれだけで、巨大な魔力をこめた言霊なんだ」
「自分の存在の根幹に関わる言霊。それを相手に知られたら、どんな呪詛がくわえられるかわからない。呪詛の恐ろしさは、生きている間は知らない方がいい」
「本名を呪詛に使われる……?」
「そうだ。だから、この屋敷においては、Ladyの決めたありがちなぞんざいな通り名でお互いを呼ぶ事になっている。本名には触れない、同じく、相手個人とは適正な距離を取ることが、何よりの掟になっている。掟を破ればどうなるかは……」
メレウトにはメレウト内部だけで通じる様々な用語や因習があることは、この数日間で気がついている。
この場合は、
うまい飯を食べながら、不愉快な話題をする必要もない。
「これ、うまいな。なあ、
当たり障りのない話題。
「クワイが好きだ。あとはゆべし、つみっこ……」
そのまま好きなものの話をしてその場は終わった。
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