第10話 メレウトの生活(1)
結局、
そうしてわかったのが、本当に、メレウトの設備は令和の日本と遜色がないということであった。むしろ、最新設備ではあるまいか?
トイレは全ての階に洋式のものがあり、常に清潔に保たれていた。
風呂は一階に大浴場が一つ。
三階にLady専用の女風呂が一つ。
一階には、
二階が、それぞれの個室で、八畳程度の空間に、それぞれベッドや机やタンスなどがしつらえられている。
三階が、Ladyと呼ばれる女性の個室で、そこに出入りしていいのは
電気は全ての階の全ての個室についている。
それでどうして、ここは時空の狭間のマヨイガだなどと言えるのか、訳がわからない。とりあえず、庭から井戸水をくんでいることと、自家発電であることは、説明を受けたし、井戸の確認もさせてもらえた。
それなら下水道の先はどうなっているのかと聞いて見ると、
「別の異界を通じて地球の海に流しているはず」
と、意味不明の言葉が返ってくる。
台所や風呂のガスはと聞いて見ると
「毎週土曜に業者が来るから、そこに頼んでいる」
と、ますます意味不明の言葉が返ってくる。
生活のゴミはどうしているのかと聞いて見ると
「庭で焼く、焼けないものは砕いて土に返す」
……昭和の、焚き火が普通だった頃の答えが返ってくる。
そういう状態で、マヨイガだけに狐につままれたような状態で、
土曜日の午前中、
メレウトの広大な庭は、家庭菜園にもなっており、
そのため、徐々に教えると言われながら、今できるのは草むしり程度なので、
そして昼前に仕事を終わらせ、
大浴場で新しい作務衣に着替えて、隣の洗濯場の洗濯機に汚れた衣類を放り込み、食堂に行くために玄関ホールを横切った。
腹が減っていたので急ぎ足だった。
だから、
「はあ!?」
そのまま、通り過ぎようとしたホールに出店が出来ていたので、
もっと性格に言うと、フリマの出店のように品々を広げている相手が、巨大な兎の着ぐるみを来ていたので戻ってきて確認した。
兎の着ぐるみ--に、見える。
兎、だと思う。
白や灰色の大きな長耳。
赤い瞳。
毛むくじゃらの体。
「…………」
さらに、齧歯類によほどのこだわりがあるのだろうか。ハムスターもいた。ハムスターの着ぐるみ。
ハムスターそっくりの着ぐるみを着た人間が、フリマの出店の前で、ちょこんと座ってこちらに向かって手を振っている。
「…………」
「あ、こんにちはー、新しい人ですか? 見かけなかったけど……えーと、牡丹さん?」
そこで齧歯類の一人が日本語でそう言ったので、放心していると、齧歯類に比べて全然目立たなかった
「
「……業者って、あんた……」
「その方が、納得出来るだろう?」
「…………」
何が何やらわからないが、それでも興味に惹かれて、
フリマの出店のように広げられているのは、食料品や衣料品、日用品だった。それと、
「もしかして、彼等から、一週間分の食料なんかを買っているんですか?」
「ああ。それと、買い取りと両替も彼等の役割だ」
「はい?」
「メレウトで作られた薬や野菜を、この業者に買って貰っているんだ。それで金を稼いだり両替してもらったり。時空から孤立している我々の数少ない接点が彼等、妖怪の行商人だ」
「妖怪……」
一見かわいらしい兎やハムスターの着ぐるみに見えるが、本人達の前ではっきりと、
妖怪なのだろう。妖怪なのかもしれない。
そこで、ハムスターの着ぐるみと思わしき妖怪が、かぱっと大きく、その口を開けて見せた。
ハムスターの口だった。
多くを語る事は出来ない。着ぐるみだったらそうはいかないだろう。
明らかに、巨大な齧歯類の口だった。牙も何も本物だった。
絶句。
着ぐるみではない。着ぐるみではないなら、人語を解して商売をする齧歯類、ということになる。なるほど、妖怪。そういうのしかないかもしれない。
現実を見てそう思った
「あ、
そこに、
「こんにちは、
兎の妖怪が陽気にそんなことを言っている。
「ああ、そこは頼む。それと、この野菜も買い取ってくれ。……どうしたんだ、
それがどんな顔なのかはわからないが、
メレウトでは、この、人語を解する齧歯類妖怪と商売をして、肉や魚や衣服を買い取って、それで生活を送っていたらしい。
しかも、自分たちの育てた大切な野菜や薬草、それから出来る薬品なども、販売して金を得ていたらしい。……さすがに、物々交換はしていないようだが。
「あ、はい。その、妖怪……って」
「はい。妖怪ですよ」
「その口の構造で、どうやって、人間の言葉を発声できるんですか」
「そりゃ妖怪ですから……あんま気にした事ないですね」
(気にしろ!)
本来、兎やハムスターがどんな鳴き声なのか、聞いた事がないのでわからないが、とりあえず、齧歯類の口の構造で、どうすれば人とそっくりの声を立てられるのか、まずそこからわからない。
「まあ、魔法のようなもんだ。そう気にするな。それより何か欲しいものはないのか?」
「いえ……」
欲しいものといっても、そもそも齧歯類に通用する貨幣を自分が持っているかどうかがわからないのだった。
(魔法かよ。そうかよ!)
そうとしか思えなかった。
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