第8話 ”マヨイガ”とは
長ドス。
忍び刀。
そんなものまで飛び出る環境で、追い回されたらたまったものではない。
当て身を食らった腹を撫でながら、
少なくとも、
自分よりも強い相手に無理に逆らって、忍び刀で斬りかかられたらそのときどうするか。即死するかもしれないし、手負いのまま酷い人生を送る事になるかもしれない。
--斬られ損もいいところだ。
当て身で気絶させられて、相手の実力を知った
電話もない生活をしているカルト教団内で、いつまで自分の精神が正気でいられるか多少気にはしたが、斬られ損よりはましだと思った。
ちなみに気絶する勢いで当て身を入れられると、当分はまともな食事が出来ない程度に腹が痛む。
そういうわけで、
「……だから、脱出しようとしても無駄なんだよ」
何回目かに
「同じ事を試みた人間は多い。だけど皆、このメレウトを囲む迷いの森の中から脱出する事は出来ないんだ。森に入ったまま帰ってこないはずの人間もいたけれど……」
「けれど?」
「かなり悲しい遺体になって発見されている。森をパトロールする
「悲しい遺体……」
「説明はいる?」
「いりません」
思わず
確かに、北海道の田舎町の中とはいえ、メレウトの周りを取り囲む森は異様である。
昨日、夜目に確認したが、メレウトは三階建て以上の小型の城のように見えた。その城の周りを取り囲む、桜並木も含めた広大な庭も大したものだが、その周辺を、ぐるりと、鬱蒼とした森が巡っているのである。
その森の向こうに何があるのか、
北海道の田舎町。……その真ん中に、何故こんな建物と敷地があったことに、
「本当に、君のために念を押して言うけれど、くれぐれも自分勝手に迷いの森に入っていったらだめだよ。この数百年、迷いの森に身勝手で入っていって、脱出出来た人間は一人もいない。必ず、数日のうちに、メレウトの庭に悲しい遺体になって転がるはめになっているから」
「……裏切り者には死あるのみって、ことか?」
カルト教団を脱会して逃げ出した信者がそういう目に遭うということなのだろうか? と思って、
「裏切るというよりも、掟に反すると、必ずそういう事になる。そういう仕組みになっているらしい」
「……らしい?」
思ったよりは断定してこない
無論、
「徐々に覚えて貰おうと思っていたんだけれど、このメレウトは、マヨイガなんだ」
「マヨイガ」
それを聞いて、
何故ここに、マヨイガという単語が出てくるのかがわからない。
マヨイガとは、北海道の真下、東北地方の民話に現れる幻の家のことでる。
訪れた者には必ず富貴を授けるという、山の中の不思議な家。伝承の存在なのだ。
マヨイガを題材に取った小説やアニメ作品などもある。
そのマヨイガが、何故この文脈で出てくるのかというと……本当にマヨイガだからなのか?
自分は、マヨイガに迷い込んだということなのだろうか。そういえば、
その時は、電波が冗談を言っていると思い込み、相手にしていなかったが、だんだん状況がわかってくると、腹の痛みが激しくなるような、悪寒で背中が痺れるような、そんな感覚になってくる。
「あ、知ってるかな……マヨイガ。そう言えば聞いてなかったね。日本のどこが出身だったっけ? マヨイガという言葉を知っているなら、早い」
「ここは、神罰を受けた人間の牢獄であると同時に、時空の迷路にはまりこんだマヨイガなんだよ。ここに来た人間は、たった一つのある条件を満たさない限り、この時空の迷路から出る事が絶対に出来ない」
「な、なんだそれは」
「条件のこと?」
思わず荒ぶる声を立てた
「それは、本当の愛を知ること、それだけだ」
「本当の、愛……?」
口がかゆくなるようなことを繰り返してしまう
「そう。愛」
「この何百年かの間に、マヨイガであるメレウトに迷い込んで、無事に脱出出来た人間は数人いる。脱出出来なかった人間が、今ここにいる全員だ。脱出出来た人間達は、色々な事があって……中には試練としか言えないような事をクリアした上で、条件を満たした。本当の愛を知った人間は、メレウトから外に出て、元の時空に帰って幸せに暮らしているだろう」
「元の時空で幸せに暮らす……」
「ここで生活する人間の全員の目標がそれだ。本当の愛を知って、元いた自分の世界、自分の人生に帰り、幸せになること」
「待て。今さっき、何百年かの間って言ったけれど。どういうことだそれは。
「ああ、うん」
「
「メレウトはこの館が存在した時からの、内部の時間では、500年以上の時間を過ごしている。その間に、メレウトに罰を受けに来た人間は多いよ。……それだけ呪われた館だし、愛に呪われる人間は多いんだ」
「……………………」
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