第2話 通知の意味


「ごめんね……言えなくて」



起動したスマホの黒い画面から、一つの通知が届いていた。



「友……美…………?」



まだ覚醒していない頭が情報を処理していたのは、友美からLINEがきたということだけだった。



とりあえず、顔を洗って学校に行く支度をしなければ。



洗面台に立ち、三月にしてはまだ冷たい水を顔に浴びせ、寝ぼけた意識をはっきりとさせる。


そして、覚めたところで1つの疑問が浮かぶ。


「どういうことだ……?」



確かに昨日は告白した。



それに対して言えなかったということならば、

かなりいい展開かもしれない……。



でも、これは何となく違う気がする。



言葉的にも意味を含んでいる表現を使っているし、何よりもそれだけしか書かれていないという所が不吉な予感をさせる。



朝から優れない気分になってしまった。

くそっ……、なんなんだよ一体。




幼馴染だからこそ、言えない事情もあるだろう。だけれど、告白をしてしまったせいで今までの時間を無にしてしまうのか?



俺は友美が簡単に関係を切るような人間ではないと思いつつも、頭の隅では悪いように想像してしまう。




人間の性だろうか。



色々妄想を膨らましている間に、8:00を回りそうだった。



「今日学校行かないの?」



母さんに催促されるほど、遅刻になりそうな時間。



「学校行くよ。朝ごはん食べなくてごめん」



「別にいいわよ。でも、夜更かしすると寝坊するんだからだめよ」



「ごめん……行ってきます」



本当は夜更かしというよりも、寝れなくてそのまま朝を迎えてしまったのだが……。



「うん、いってらっしゃい」



母さんが玄関で手を振っているのを尻目に、これでもかと言うくらいの猛ダッシュをした。




競走馬並みのスピード感で走っていた気がする。



おかげで、さっき考えていたことなど考える暇が無くなった。



これこそ、だろう。



何とか一限目にギリギリで間に合う形で、学校の門をくぐった。



「はぁ……はぁ……」



下駄箱には誰もいなく、そろそろチャイムも鳴る頃。そんな中、1人で息を切らし、汗が滴り落ちる。



幸い、同じクラスにはあまり友達が少なく、多少息が荒くしながら教室に入っても、注目を浴びないが、それでも自分が気にする。



最悪、チャイムに間に合わなくても息を整えてから行こう。



「はぁ…はぁ……、ふぅ…」

「キーンコーンカーンコーン……」



なんと間の悪い。



それでも普通の状態になれたから良しとするか。



トボトボと歩いていて、自分の教室に着く。



ガラガラ……



まだ先生が来ていなかったおかげで、遅刻扱いにも堂々と遅刻をしている奴にも認定されなかった。



「よかった……」



ほっとした気分に包まれ、数十分前とは真反対の心理状況だ。

そう思った矢先、



「おーう、みんないるか。ごめんな遅れて」



全然問題ないですよ、先生。遅刻になりませんでしたし。



「じゃあはじめるぞ、教科書p153の国風文化についてから……」



その言葉を聞き始めてから、何だか瞼が重くなった。



(あれ……目が開けてられない……)



睡眠不足と急に運動したせいで、脳がお休みモードを発動しているらしい。



(いや、これ寝たらわかんなくなるから、起きてたい……何とかしなければ)



目を大きく見開いてみたり、指の眠気覚ましのツボを押したりしてみたが、改善される気配はない。




(くそ……諦めるな……)



「……となるから、ここが……文化の……だな」



先生の声が接続の悪い電話みたいに途切れてしまっている。



「それじゃ、資料集の……」



この言葉の後、急に声が聞こえなくなり、次に聞こえてきたのは



「おし、じゃあ今日はここまでにしとくか」




という、終わりを告げる言葉だった。



俺はどうやら三大欲求の一つ、睡眠欲に勝てなかったらしい。



欲求は時には我慢しないほうがいいまである。

そう思うと、罪悪感が減るのでとりあえずそう思うことにした。



日本史の点数が悪かった前回の記憶も曖昧にしておいて。



そして、寝ていた間に夢を見てしまった。



それもまた、思い出したくない夢だ。



小さい頃の友美が、どこか遠くに行ってしまう夢。



「待ってくれよ!!」


そう何度声をかけても、ただ笑顔で首を振るだけで止まってくれない。



全力で追いかけてもその差は開くばかり。



最後はほとんど見えなくなってしまうまで離れてしまった。



そこで目が覚めた。



これは何かを暗示しているのだろうかと思ったが、こんなのは思い過ごしにすぎない。




「とりあえず、友美を探すか」



隣のクラスにいる友美と話せば、何となくその日の雰囲気とかで、少しの不安も消し飛ぶだろう。



それに、今日のLINEも気になるしな。



隣のクラスのドアから教室を覗いたが、友美は席にいない。


トイレでも行ってるのかと思ったが、クラスの女子が



「今日、友ちゃんいないからつまんないねー」



と話していたため、休みであることを知った。



(あいつが休むなんて珍しいな)



友美はあまり風邪をひかず、特に法事などの用事がなければ大抵学校に来るし、皆勤賞ももらってたはず。



(いないんじゃ、仕方ない)



ほっとしたような残念なような複雑な気持ちを抱えたまま、自分の教室へと戻る。



「はーい、席に着いてくださーーい」



次の授業の先生がもう来ている。


「あとでLINEでも送ろう」


そう思って、俺の嫌いな数学を受けることにした。



この日、俺は何度かのを経て、あっという間の1日が終わった。




そのため、結局LINEを送る暇もなく、もう下校する時間。



(まぁ、直接会いに行けばいいし、お見舞いでも持っていってやろう)



家もそんなにお互い遠くない。

もともとは隣同士だったが、二世帯住宅にするという関係で、少し離れた所に住んでいる。




それでも、学校の人間の中では1番近いのだが。



とりあえず、肉まんでも買ってやるかと思っていた時、担任が



「水澤、ちょっといいか。大事な話があるんだ」



と声をかけてきた。



俺は何もやっていませんと言いかけたが、そもそもあまり授業以外で精力的に活動していないのだから、恐るに足らずだ。



でも、何と無く気になった。



「何の話ですか?」



「大森の話だ。お前ら同じ部活だし、何なら家も近いだろ?だから、お前に話そうと思ってな」



先生は普通のトーンで話していたが、嫌な予感がした。



そして、それは的中した。



「大森が転校するんだ。色々な事情で」

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Rewrite 明日葉直希 @fairwind

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