24:00

◇◇◇


俺が小学六年だった年、侑莉は当然中学一年だった。

能天気な子どもだったし、侑莉だっていつも年上とは思えないくらいかわいかったから、何もわかってなかった。

二人とも小学生だったときと何も変わらないって思ってた。


『あ、臣!』

放課後、下校途中に侑莉に呼ばれて振り返る。

中学の制服の侑莉は知らない人みたいだったけど、めちゃくちゃかわいいとも思った。

だけど

『今帰り?』

『うん……』

『え? 誰? ユリの弟?』

侑莉のまわりには何人か友だちがいて

『ちがうよ。幼なじみなの』

『えー! ランドセルかわいい〜!』

『なんかもう懐かしいな』

男子もいて

『臣も一緒に遊ぶ?』

侑莉は全然気にしてないって感じだったけど、俺は自分のランドセルがめちゃくちゃガキくさくてダサい気がして恥ずかしかった。

『遊ばない』

みんな制服が大人っぽく見えたし、男子は背だって俺より高かった。

侑莉に置いていかれた気がして、すごく嫌だった。


◇◇◇


23時55分。

「だからもう絶対ランドセル姿なんて見せたくなかったし、身長伸ばすために牛乳だっていっぱい飲んだ」

全然知らなかった。

「放課後と休みの日は友だちとバスケとかスポーツして、身長伸ばすために頑張ったんだよ」

「嘘……」

「ほんと」

信じられない。

「……ふっ」

思わず笑っちゃったら、臣が照れたようにムッとする。

「どうしたら侑莉に男として見てもらえるか、ずっと考えて、勉強して」

だから中学生になったら急に行動が大人っぽくなってたんだ。

「臣、かわいい。ふふ」

また笑っちゃったら、臣がわたしのほっぺをぎゅってつぶした。

「〝かわいい〟なんて言われるのも、笑われるのも全然うれしくないけど」

「……」

「侑莉が誕生日に笑っててくれるのは、すごくうれしい」

今は臣の方が泣きそうな顔してる。

初めて見る顔に、キュンッて胸がしめつけられる。

「俺たち、同じ病院で生まれたって知ってる?」

「知ってる」

ほとんど同じ日に、同じ病院で生まれたの。

新生児室のとなり同士のベッドで寝てたって。

だからよけいに、生まれるのがあと何時間か遅かったらなって、いつも思ってた。

「それってさ、俺が生まれた瞬間から、俺の世界には侑莉がいたってことだよね」

「え?」

「侑莉は、俺より早く生まれて嫌だって思ってるかもしれないけど」

また、おでこを「コツンッ」ってする。

「侑莉が先に生まれてくれたから、俺は」

瞳を、じっととらえられる。

「生まれた日から、侑莉しか見てない」

「……」

臣があまりにも真剣に言うから、うまく言葉が出てこない。

「お願いだから、俺の一番好きな人の誕生日、笑顔でお祝いさせてよ」

「……むりだよ」

だってこんなの……。

「こんなの、うれしくって、泣いちゃうもん」

臣がまた、ギュッて抱きしめてくれる。

わたしもギュッて抱きしめかえす。

「わたし、さっき、ひどいこと言っちゃった」


『……嫌い。……臣なんて』

『年下で、子どもっぽくて』

『いじわるで』

『大っ嫌い』


「いいよ。エイプリルフールだから。嘘だってわかってる」

そう言って、臣がまたわたしの顔を見る。

「だけどもう、エイプリルフールは終わったから、ちゃんとほんとのこと教えてくれない?」

まだちょっと、恥ずかしいけど。

「お誕生日おめでとう、臣。世界で一番、大好き」

笑顔で言えたわたしに、臣がやさしくキスをする。

「今まで生きてきた中で、最高のプレゼント」

彼はイタズラっぽく笑う。

「一年待ってて。もっと大人になって、絶対侑莉と同じ高校に行くから」

臣の言葉に、首を横に振る。

「大人になんてならないで。心配だから」

困り顔で言うわたしに、臣がまたキスをする。

髪、まぶた、ほっぺ、くちびる……


「ふふっ。くすぐったい」


4月1日、24時。

キスの雨。

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4月1日、24時。 ねじまきねずみ @nejinejineznez

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