23:40

臣が中学に入学してしばらく経った頃。


『あの人? 臣くんの幼なじみって』


二年の教室に一年生の女子がのぞきに来た。

一時期はいろんな子が入れ替わり立ち替わり毎日のように。臣の幼なじみのわたしを見に。


『モテる幼なじみを持つと大変ね〜』

友だちにからかわれる。

だからって、どうしてただの幼なじみのわたしなんかを見に来るんだろうって思ってたら、女の子たちの声が聞こえてきた。

『全然フツーじゃない?』

『でも、臣くんは〝この学校で一番かわいい〟って言ってたよ』

は!? ちょっと臣!

変なこと言わないでよ!


『でも年上でしょ? 臣くんは〝年上は好きじゃない〟って』


わかってるもん。

わたしはただの、〝一個上の幼なじみ〟だって。

たまたま家がとなりだっただけだって。


だけど、たまたま何時間か早く生まれただけで年上になっちゃっただけなんだよ。


***


23時40分。

「今年で最後ってなんで?」

臣の顔が、ちょっと不機嫌になってる。

わかってないね、臣。

「今年で最後っていうか、今日だけじゃなくて……もうわたしの部屋に来たらダメ」


好きな子がいるのに、こんな風に女子の部屋に来ちゃダメだよ。……臣にとってはわたしは女子じゃないのかもしれないけど。


「わたし、もう高校生だし。臣だって今日から中三でしょ? こういう子どもっぽいのはやめにしようよ」

「……」

ムッとした顔で黙ってる。

「臣?」

「……侑莉は?」

「え?」

「侑莉は、好きなやつとかいるの?」

「えっ!?」

今度はわたしが焦りだす。

本人に聞かれたら、どう答えたらいいの? って。

落ち着け、自分。

「……いるよ」

「え、誰?」

あ、びっくりしてる顔。

「だ、誰だっていいでしょ? 臣に関係ない」

ますます不機嫌そう。


「……侑莉にとって、俺って何?」


「え……」

そんな質問されると思わなかった。

そんなの〝好きな人〟に決まってるでしょ?

なんて、言えるわけない。

「そんなの、〝一個下の幼なじみ〟に決まってるでしょ?」

「それだけ?」

何? その聞き方。

「それだけだよ」

臣が不機嫌だから、わたしもつられてムッとする。

「……」

臣はさっきからずっと不機嫌。


「……俺のこと、好きなのかと思ってた」


一瞬、何を言われたのかわからなかった。

だけど、すぐにわかった。

〝わたしの気持ちなんて、とっくにバレてたんだ〟って。

「何言ってるの? そんなわけないじゃん」

言えるわけない。

「好きじゃないよ」

臣には他に好きな子がいるのに。

「ほんとに?」

ひどいよ、こんな質問。

「ほんと」

「だけどさあ……」

せめて、仲のいい幼なじみでいさせて欲しいのに。

「ないよ」

「でも」

それもダメだって言うの?

「しつこいよ」

「……だったら侑莉、なんで泣きそうなの?」

……こんなの、涙が勝手にあふれてきちゃうんだよ。

「……嫌い。……臣なんて」

好きだよ。

「年下で、子どもっぽくて」

大好きなの。

「いじわるで」

ほんとは、ずっと好き。

「大っ嫌い」

他の子のものになんて、ならないでよ。


急に、臣の匂いに包まれる。

少し遅れて、抱きしめられたんだって気づく。

臣の心臓がドキドキしてる。

どうして?

「……やめてよ」

「やだ」

ギュッて力を入れられる。

「好きな子がいるんでしょ……」

「いるよ」

「だったら——」


「なんでわかんないんだよ。侑莉に決まってるじゃん」


また、臣の言葉がわからない。

今度はほんとにわかんない。


「……え?」

「侑莉が俺を嫌いでも、俺は侑莉が好き」

そんなの嘘。だって

「わたし、見たよ」

「見た? 何を?」

「卒業式の前の日」


臣が一瞬ピクって反応したのがわかる。

ほら、やっぱり。


「臣、女の子と抱き合ってたでしょ?」

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