23:30

『侑莉の幼なじみってかっこいいよね。ってゆーか、これからどんどんイケメンになりそう』

中学二年のわたしが友だちによく言われた言葉。

臣が中学に上がって来た頃から、何度も言われた。


『中身は全然、小学生のままだよ』

わたしが決まって友だちに返してた言葉。


誰にも臣を見つけて欲しくなかったから、そう答えてた。


中学生になった臣は、急に男っぽくなって女子にモテるようになってた。

わたしより小さかった背も、いつの間にか抜かれてた。

重たいものを持ってくれるのは昔からだけど、さりげなくドアを開けてくれたり、道の車道側を歩いてくれるようになってた。


ううん、急じゃなかったのかもしれない。


だって、わたしは小学六年の臣が学校でどんな風に過ごしてたか、知らないんだから。

あの頃は、家に帰ってからも、お休みの日もあんまり会わなかったし。


男っぽくなっていく臣にドキドキするたびに不安になる。


〝誰に教えてもらったの?〟


〝どうして大人になろうとしてるの?〟


***


23時30分。

〝コンコン〟ってわたしの部屋の窓が鳴る。

ベッドの上でマンガを読んでるわたしは、一瞬窓の方をチラッと見て、またマンガに視線を戻す。


〝コンコン〟


〝コンコン〟

〝コンコンコン〟


「もー! うるさいなぁ!」

起き上がったわたしは、窓ごしに文句を言う。

目の前には、となりの家の窓から身を乗り出した臣。


〝開・け・て・よ〟

彼の口が動く。


となり同士の家で、臣の部屋とわたしの部屋がとなり同士。

「めんどくさいなぁ」って顔を作りながら、ガラガラと窓を開ける。


「お邪魔しまーす」

当たり前のように部屋に入ってくる。

「来なくていいって言ったでしょ?」

「嘘だろ?」

一瞬、また大人びた顔を見せられて、思わずドキッとする。

「だってエイプリルフールじゃん」

今度はイタズラっぽい子どもの顔。

「嘘なんかじゃない」

今日は臣といたくない。

「そんなこと言わないで、今年も二人でお祝いしようよ」

臣は困ったように笑う。


「二人の誕生日」


あと少しで、今度は臣の15歳の誕生日。

4月2日に彼は生まれた。

年上年下なんて言ってるけど、わたしたちの歳の差は一日。ううん、それどころか数時間。

毎年こうして、日付が変わるときに二人でお祝いしてる。


「わたしの誕生日なんて、おめでたくない」

今日が大嫌いだから、かわいくないことしか言えない。今年はとくに。


「いいからいいから、ほら、ポテチとジュース」

臣が小さなテーブルにお菓子を広げる。

「……」

わたしも隠してあったクッキーを出す。

「やっぱり準備してるじゃん」

「……だって臣の誕生日だもん」

プイって目をそらしてかわいげなく言うわたしを、臣は笑う。

こういうときの、ちょっと困ったやさしい顔が好き。


好きだよ、臣。


「侑莉、なんかつけてる? 甘い匂いがする」

「ママがくれた香水」

「その服もかわいいね、似合ってる」

「パパがくれたの」

こんな時間に、部屋着じゃなくて花柄のワンピースに香水なんて、臣が来るのを待ってたってバレバレだよね。

「髪も長くなったね。かわいい」


臣に見せたかったの。

臣にほめて欲しかったの。

臣に〝かわいい〟って言われたかったの。

臣はそれをぜんぶ、ちゃんと叶えてくれた。


だけどね、今はそれが全然うれしくないの。


いいんだよ? 無理しなくて。


「……ねえ臣」

「何?」

「臣って好きな子いるよね」

「……えっ!?」

臣がこんなに焦るなんて、めずらしい。

「急に何?」

「急なんかじゃないよ」


見ちゃったんだよ、わたし。


「いるでしょ?」

「……いるけど」

やっぱりね。

「耳まで真っ赤」

こんな臣、初めて見る。


「今年で最後にしよ? このお誕生日会」

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