かみのてのひら 【KAC20245】

釣鐘人参

私の町に地質学者がやってきた

すみません。お構いできず。斜面の地層を観察するのが日課でして。


私の無味乾燥で事務的な対応に、あなたの調査に立ち会えるなんて身に余る光栄です。はじめまして。


と、身なりの良い二人組は慇懃に応じる。


彼女たちは地質学者で、わざわざ私に会うためにこの泥臭い田舎町へやってきたらしい。


ところでそちらの〈犬〉は?


地質学者の一方が私に尋ねる。


最近飼いはじめた私の相棒です。私がそう応じると、かわいらしいこと。と、当たり障りない感想。


私は数年前、竜の〈化石〉を発見し一躍時の人となった……はずであったが現在(いま)はこのザマ。気まぐれに訪れる成金旅行者様にしみったれた化石を高値で売りつけなんとか糊口をしのいでいる。


ここ数日の高潮で、この返も崩れやすく、もろくなっておりますから相棒の活躍をお目にかけられると思いますよ。


言いつつ私の出した合図に従い相棒が駆け出す。目標は地面にさらけ出された巻貝竜の化石。


なんと。君は今あんな遠くに化石が顔を出しているのを見つけたのかい?


当然です。毎日見回っている土地ですもの。と、たまげる地質学者達に応じ、相棒に更に合図を送る。


久しぶりの大物よ。人を呼びに行ってくる。どうしてればいい?


私の指示に相棒はその体を丸め、地面に伏せる。化石を自分の体で覆い隠したのだ。


なるほど、なるほど。これは立派な相棒ですな。


いちいちリアクションが大袈裟で胡散臭い。私と同じ匂いがする。


大変素敵な時間でしたわ。

次はゆっくりお店の方にも寄らせてもらうよ。


はい。いいブツそろえてお待ちしています。


……万事がこの調子である。


私の生まれた家は震災で真珠の養殖が全滅し多額の負債を抱えてド貧乏になった。病気がちの母、能無しの父。不良の姉。私は小さな頃から父の副業であるところの化石採集を手伝いいろいろと教わってゆくうち、あることに気がついた。


化石は王族、貴族、裕福な商人、上流階級の間で蒐集品や薬として珍重された。中でも竜の化石は〈土地の力が宿る〉とされ高値で取引される。そこで私は考えた。


自分で作ってしまえ。と。


新月の夜、ことに歪んだ真珠を土に埋め、六四度目の満月の晩に掘り起こす。月の光と土地の力を吸った真珠が竜に育つのだ。但し石の中にいる竜は際限なく育つこともなく、石の中から出ることもなく短い命を終え、骨になる。


はなさないで、一生の秘密にしておこう。


張り付いた笑顔で地質学者を見送った私は、適当な岩に腰を下ろし一本立てた。見上げた空は曇天だった。

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