第13話 必要

「私なんて、世界に必要ないんだ! 皆が嫌いな私なんて、消えちゃえばいいんだぁ!」

 あ、そっか。あの時のお姉ちゃんと、今のみーみは一緒なんだ。

 ボクは、みーみを抱きしめた。

 あの時、お姉ちゃんにしたくても出来なかったことを、みーみにしてあげる。

 絶対にひとりじゃない。ボクがいるんだよと、そう伝えたくて。

 その時だった。

「もーもー!」

 ボク達の背後からもーもーの声がした。

 勢いよく振り返ると、そこにはもーもーとぺんぺんがこちらに向かってきていた。

 もーもーは相変わらず低空飛行でのんびり飛んでいる。でも、手に何か持っている。

「もももー。もーもー!」

 もーもーはその手にあるものをみーみに渡す。

 それは、不格好だけれど、ボクのしているタンポポの花冠より小さめのタンポポの花冠だった。

「もーもー、これ……」

「ももー。もーもー。ももももー!」

 もーもーはどうやら謝っているらしい。

 そしてそれはみーみにもしっかりと伝わったようだ。

「もーもーの、バカ……!」

 そう言って、みーみはもーもーを抱きしめた。もーもーは少しびっくりしていた。

 そして、みーみはもーもーの目をしっかりと見て、こう言う。

「ごめんね、もーもー」

「もももー!」

 ぼくも、そう言っているようだった。

 もーもーはそれから花冠をみーみの頭にぽすっと載せる。

「もーもー、ありがとう。みーみ、お妃様に見える?」

「ももー!」

 もーもーは当然だと言うかのようにグッジョブサインをみーみに送った。

 みーみはふわっと、笑みを浮かべた。よかった。これで、また皆一緒だ……!

「さて、一段落しましたね。よかったですね。みーみさん。……みーみさんも、もーもーさんも、食べることが好きなのはわかりますが、相手の気持ちをもう少し考えられるようになるといいですね。また、こんな思いをするのは、嫌でしょう?」

 ぺんぺんがそう言うと、みーみももーもーも頷いた。

 それだけ言うと、ぺんぺんは少しだけ微笑んだように見えた。平和が好きなんだろうなぁ。ぺんぺんは。

 だって、なんかおじいちゃんみたいな時、あるもん。

「ぽてとさん、そろそろ、次の街に行きませんか? うーさんから聞いたのですが、夕方には飛行船が出てしまうそうです。そうしたら一夜明かさないと次の飛行船は来ないそうなので、今の内に移動して、明日いろいろと調べたり聞き込みをする時間を多めに作っておく方がいいと思うんですよ」

 ボク達はぽかーんとした間抜けな表情を浮かべていたに違いない。

 ぺんぺんは、ボクが思っていたよりも大分先のことを考えてくれているし、調べ物がとても得意なようだ。

 そういうところ、尊敬出来るなぁ。

「ほら、ぽてとさん達、行きますよ。それからぽてとさん、これからの旅の目的を、もう一度設定した方がいいと思うので、教えてもらえますか? やっぱりそういうことは共有した方がいいと思うんです」

 ボクは深呼吸をしてから、皆を見てこう言う。

「ぬいぐるみ王国を築くよ! そして、お姉ちゃんもぬいぐるみ王国に迎え入れるんだ! 皆、手伝って!」

 ボクがそう言うと、皆頷いてくれた。

 なんて素敵な兄弟達だろう……! この、ボクの大事な理解者達を、ボクは守りたい。

「――お姉ちゃんはね、守られるよりも守れるようになりたかったんだ。でも、一生なれないかもしれない。お姉ちゃんは誰も守れない。自分の弱さに厭き厭きするよ」

 いつだったか、お姉ちゃんがそう言ってボクを抱きしめた。お腹がじんわり湿って、お姉ちゃんが泣いていることがわかった。

 お姉ちゃんにはもう泣かないでほしい。いつだって笑っていてほしい。だから、悲しくない世界を作りたいんだ。

 多分それって凄く大変なことだと思う。だけど、不可能って程じゃないと思うんだ。

 一人一人が相手を思いやれるために、ちゃんと教えてあげれば、きっとどんな人だって笑顔になって相手のことを考えてあげられるようになるはず……!

 まず、この世界からだ。ボク達の優しいぬいぐるみ王国を築くために、その一歩をここから始めるんだ!

 待っててね、お姉ちゃん……!

 ボクはそう思いながら、ボクを初めて見つけてくれて、抱っこしてくれた時のお姉ちゃんの笑顔を思い出した。

「皆、行こう!」

――ボク達は歩き出した。

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