第5話 大事なもの

 部屋の上座に、凄く立派な椅子があって、そこにうさぎの耳と尻尾……、うーちゃんと同じような人が綺麗な白いドレスを着て座っていた。そして、その横にうーちゃんがいる。

「あら、あなた達がうーの言っていたお客さん、なのね。ふうん。ぽてと、だったわね。それとお付きの人々ね。初めまして。うーの妹のみーよ。……よろしくね」

 スッと手を差し出すみーさん……ううん、みー様。

 ボクは握手をした。

 するとみー様は「あなた……、素敵な冠を被ってるのね」と言って、ボクの頭にあるタンポポの花冠を取った。

「あー! それみーみの! ぽてとにあげたもの! 勝手に取っちゃ嫌ー!」

 みーみはそう言ってみー様から花冠を返すようにと訴えた。

「ぺ、ぺんぺん!」

 ボクがぺんぺんにみーみを止めるようにと目で訴えかける。

 でもぺんぺんは困ったように微笑むだけ……。

「こら、みーちゃん! ダメだよ。人のものを欲しがっちゃ。これは、ぽてと君の大事な人がぽてと君にプレゼントしたものだから」

「それって、大事なもの?」

「うん。とても、とてもね」

 うーちゃんがみー様にそう言う。そうすると、みー様は納得したように一度ゆっくりと瞬きをすると、ボクの頭にタンポポの花冠を返してくれた。

「ごめんなさいね。悪気があったわけじゃないの。ただ、美味しそうだなって思って。でも、あなたの大事な人から貰った大事なものだったのね。みーみ、だったかしら。私と名前が少し似てるから勝手に親近感湧いちゃうんだけど、あなたにも、ごめんなさい、ね……。うーちゃん、この方々に贈り物を。私の無礼で嫌な気持ちにさせてしまったから、そのお詫びに」

「わかった! それじゃあ、皆さん。贈り物は何がいいでしょうか? 僕もみーちゃんも、出来ることなら何だってしますよ」

「……」

 ボク達は少し黙り込んでしまう。何がいいだろう。贈り物をくれると言っても、こちらもあまり豪華すぎるものとか貰っても、ちょっと困るしなぁ。そんな風に思っていると、ボクはふとお姉ちゃんの顔が脳裏を横切った。

 ……ぬいぐるみなのに、変かな。それとも、今は、夢のような世界だから、そんな風に思ってもいいのかなぁ。

「何か、悩んでいる様子ね。差し詰め、あなた達のご主人様のことかしら?」

「え……?」

「前にも、いたのよ。あなた達みたいな人が。かつては……、いえ、それはいいわ。とりあえず、この世界を旅して回りなさいな」

「旅をして、回る? でも、でも、それはいつ終わるの?」

「さあ。私達は、強制的に終わってしまった。だけど、あなた達はまだ希望がある。だから、いつかは終わると思うわ。大丈夫。戻れるはずよ。あなた達は……」

 うーちゃんはみー様の……、みーちゃんの頭を優しく撫でていた。

 言葉の意味はわからない。だけど、いつかボク達は、その言葉の意味を知ることになるだろうということは、なんとなく、理解出来た。

「さて、ぽてと君達、みーちゃんの代わりに僕がこの世界のことを少しだけ教えてあげるね」

「ほんと!?」

「本当だよ。わからないことは教えるよ。だって僕達、ある意味仲間だからね」

 うーちゃんはそう言うと、切なそうに笑った。

「仲間……?」

「これは、まだ知らなくていいよ。いつかは、君達も知るだろうけれど。まだ、ね。さて、じゃあ世界の話をしようか。みーちゃんは、そろそろ休む?」

「ええ。ちょっと、疲れちゃったみたい。寝てるから、起こさないでね」

 そう言って、みーちゃんは部屋を去ろうとしていた。

 何故かボクは、その背中に向かって声を掛けた。

「また会おうね! みーちゃん!」

 みーちゃんは一瞬だけ立ち止まって、少しだけ振り返ると、すぐにまた前を向いて部屋を出て行った。

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