第4話 ナナカマド

 街はそう遠くなく、意外とすぐに辿り着いた。

「ここは……何という名前の街だろう。なんだか、街の中心に大きな木があって、お姉ちゃんの大好きだったゲームと似ている気がするけど……」

「『ナナカマドの街』というそうですよ。ほら、この看板に書いてある」

「……ナナカマドまでは読める。なんていう意味? ぺんぺん」

「さあ……。お姉ちゃんならば、わかるかもしれませんが」

「どうして、そこでお姉ちゃんが出てくるの? あ、そっか! お姉ちゃんは大学に通って、卒業したからだね! でも、この世界にお姉ちゃんいるのかなぁ? いなかったら困るし、いるなら探してあげないと……」

 ボクがそう言うと、ぺんぺんは僕の頭を少し遠慮がちに撫でた。

「良い子ですね。ぽてとさんは」

 その声に重なって、お姉ちゃんの言葉が聞こえた。

「――まったく、良い子だなぁ。ぽてとは」

 何でだろう。どうしてだろう。お姉ちゃんに、早く会いたくなった。まだ、この世界に来て一日も経っていないのに。

 いつも一緒だから、それが当たり前になってるのかな?

 でも、たまになら、少しお休みしても怒られない、よね……?

 そう思いながら、僕は皆に声を掛ける。

「えっと、まずは、この街の一番偉い人に会いに行こう! すみませーん! 誰かー!」

 ボクは大きな声を出した。皆立ち止まって振り向く……かと思いきや、どういう訳だか立ち止まってくれる人は全然いない。

「あれ、おかしいな……。聞こえてない、はずないよね?」

 三人に聞くと、こくりと頷く。

「すみませーん! 誰かー! ここの一番偉い人のところにボク達を連れて行ってくださーい! お願いします!」

 その声に立ち止まる人は確かに数人いた。でも、それだけ。

 助けてくれようとする人は、あまりいなくて……。とても、寂しいと思った。だって、誰にも相手にされないのって、何より心に来るって、お姉ちゃんが言っていた。だから、ボクも今、その苦しみを味わっている……。だけど、きっとお姉ちゃんほどではないと思う。

 そんな時だった。

「あ、あのぉ……」

「な、なんですかっ?」

 ボクの声は裏返っていたかもしれない。

 それに、なんだか恥ずかしくて、情けなくて顔を上げられない。

 注意、されるのかなぁ。それとも、何か他に……。

「ここの一番偉い人のところへ、僕が案内しましょうか?」

「え、いいの!?」

 ボクが思わずそう言って顔を上げる、その人はうさぎの耳と尻尾を持つお兄さんだった。

 でも、ぺんぺんよりは若い。と言うより、幼い。

「う、うん。困ってるみたいだし……。僕は、うー。気軽にうーちゃんとでも、呼んでください」

 ぺこっとお辞儀をするうーちゃん。ボクも一緒になってお辞儀をする。

「ボクはぽてと! よろしくお願いします!」

 なんだか、懐かしい匂いがするような、そんな気がした。

 そしてボク達は、うーちゃんに案内をしてもらって、街の中心にある大樹の、なんと、中にある居住空間に行くと、うーちゃんはそわそわしながらボクの手を引いて、嬉しそうに明るい表情を浮かべて上の方、上の方へと向かっていく。

 そうすると、途中、上の方から声がした。少しばかり、気の強そうな女の子の声。

「うー、何してるの。早くこっちにいらっしゃいな。せっかく木苺を摘んできてもらったのだから」

「ご、ごめんね。みーちゃん。あ、あの、お客さんがいるんだ! 今、連れて行くから」

「お客さん? そういうことは早く言って頂戴よ」

 上の方からパタンという少し高めの音が聞こえた。

「あっ、みーちゃんが足ダンしてる! ご、ごめんね。ぽてと君達。先に行ってるね! もう、あとはこの階段を真っ直ぐひたすら上っていけば、みーちゃんの部屋に着くから! じゃあ、待ってるね!」

 うーちゃんは忙しそうに階段を駆け上って行った。と言っても、もうすぐ部屋があるらしく、階段の終わりが見えている。

「……あ、赤いカーテン。みーちゃんって、プリンセスなのかな? どう思う? みーみ、ぺんぺん、もーもー」

「みーみ思う。この先に出会うみーちゃんという子、多分、みーみと同じくらい気が強い!」

「ももー……。ももももも……」

「僕は、まあ、みーみさんと同じように、ちょっと気の強い女王様のような女の子がいるかと思うのですが、多分大丈夫でしょう」

 みーみともーもーはともかくとして、ぺんぺんが言うことは大体合ってるから大丈夫な気がしてきた。

 そして、ボクは部屋に入る前に、声をかける。

「えっと、みーさん……。ボク、ぽてとって言います! 入っても、いいですか?」

「ええ、どうぞ」

 ボク達は顔を見合わせ、頷くと皆で部屋の中に入ることにして、扉を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る