第2話 ぬいぐるみ王国の王様
「ぽてと、ぽてと! 起きて! みー! みー!」
なんだか可愛い声がする。そう思って目を開けると、そこには三毛猫色をした髪を持った、可愛らしいピンク色のワンピースを着た女の子がボクの顔を覗き込んでいた。
「だ、誰……!? え? ボク、声が出る……!?」
そう。ボクは声が出た。びっくりして、ボクは口元に手を持っていくと、さらに驚く。
「人間の……手!? ボク、一体どうなっちゃったの!? お姉ちゃんは……? ど、どうしよう。ボクがいないって知ったら、お姉ちゃん、きっと困っちゃう!」
「大丈夫ですよ。ぽてとさん」
そう低い男の人の声がした。その声のした方向を見ると、そこにはグレイッシュオリーブの髪色をした長髪の男性がいた。
「僕のこと、わかりませんよね……。僕は、ぺんぺんです。あなたの弟の。こっちの、先程あなたに声を掛けた女の子は、……わかりますか?」
「ぺんぺんってことは……、この子は、みーみ?」
そう言うと、みーみはぴょんぴょんとジャンプをして、尻尾の鈴を鳴らしながら嬉しそうに「そう! そう!」と言った。
「みーみ、凄い美人さんだったんだね」
ボクは思わず声を漏らした。
だって、みーみはぬいぐるみの時、堂々とおならをしていたんだ。人の顔の前で。
「みーみ、美人だよ? 知らなかったの? ぽてと、みーみの旦那さんなのに、みーみのこと……」と少し悲しい顔をした。
いやいや、わからないもの。ぬいぐるみの時は確かに可愛いなって思ってたし、お姉ちゃんもそう言ってた。
でもここまで綺麗なんて思わなかったんだよ……。
ボクの心は、なんだかドキドキと音をさせていた。
こ、これがときめき? そんな風に、今までなかったはずの心臓の辺りに手を置いた。うん……。鼓動を感じる。
「さて、ぽてとさんも起きたことですし、僕達はとりあえずあっちに見える街へ行ってみた方がいいかと思うのですが、どうでしょう?」
あっち? そう思っていると、ぺんぺんが指を差す。その方向を見ると、確かに街があった。
でも、なんか違う。
ここは、もしかしてボク達の居た本来の世界ではないのだろうか。
そう思っていると、ぺんぺんはわかっているようで何度か頷いた。
流石ぺんぺん、ボクの言いたいことがわかるんだね。
「早く街に行って、イチャイチャしたいんですね。みーみさんと」
「ち、違うよ! ボクはそんなこと思ってない! ただ、今までと違う世界に来てしまったんだなって思って……」
「ぽてと、みーみとイチャイチャしたくないの? みーみ、悲しい……」
「いや、みーみ、そんなこと言ってないよ! ああ、もう。ボクはどうしたらいいの!」
そう言いながらボクは一人焦っていた。
でも、そんなボクの姿を見た二人は、笑っていた。
「そんなに慌てなくても。ただの冗談ですよ」
「そう。ぽてと、みーみ達の冗談もわからないの?」
……なんか、ムカついた。
「あ、そうだ。そういえばもーもーさんも見当たりませんね」
ぺんぺんがそう言うと、空から声が聞こえた。
「もーももー! もーもーもー!」
なんだか凄く元気な男の子の声だ。
でも、結構小さい子かな? 高い声だから、そんな気がする。
そう思いながら、声のする空の方を見ると、尻尾をぶんぶん回して空を飛んでる男の子がいて、その子はボク達のところへと下りて来た。
「もーもー!」
とんっと軽い音をさせて地面に降り立ったのは、牛の耳と尻尾を持った男の子。
「もーもー、だよね?」
ボクがそう言うと、その子は「もーもー! ぽてと、みーみ、ぺんぺん!」とボク達を指差して言った。
やっぱり、ボク達の知ってるもーもーだ!
「もーもー! みーみのこと、わかる? もーもー!」
年齢が近いみーみは、もーもーに抱き着いて嬉しそうに笑っている。
「みーみ、もーもー!」
もーもーも嬉しそうだ。
「さて、仲がいいのはいいですが、そろそろ街に行きましょう。ね、ぽてとさん」
「え? なんでボクに聞くの?」
「なんでって、ぽてとさんは僕達の中で一番お姉さんと仲が良かったですし、大切にされてましたから。あと、ぬいぐるみ王国の、王様でしょう?」
ぺんぺんはそう言うと、少し悪戯っ子っぽく笑みを浮かべた。
ぬいぐるみ王国。そうだ。ボクは、ぬいぐるみ王国の王様だ……!
「うん! 王様のボクが言うよ! まずは街に行って情報収集! そして、この世界でも、ぬいぐるみ王国を作るんだ!」
「おー!」
皆の声が重なった。
そして僕達は歩き始める。あとどのくらい歩けばいいのか。ちょっとわからなかったけれど、でも、皆一緒だから、楽しく街まで行くことが出来た。
道中は安全で、思ったようなモンスターとかもいない。
おかしいなぁ。お姉ちゃんの好きなゲームとかだと、スライム? とかいうモンスターが出て来たりするんだけどなー……。
「ところで、皆は自分が人間みたいな姿してることに、まず驚かなかったの? あと、ボクが寝ている間に何が起きたの?」
「僕達もぽてとさんとほぼ同じように、何が何だかわからないまま、目を覚ました。ただ、僕はぽてとさんの髪の毛の色や、ぽてとさんへ寄り添うようにして寝ているみーみさんの髪の毛の色などがよく見慣れていたので、恐らく……と思ったのです。外れていたら、どうしようかと思いました。しかし……、大丈夫でしたね。それからもーもーさんは近くを低空飛行していたので、放っておいたのですが、気づけば高いところまで飛んでいましたね。少しばかり驚きました」
和やかな口調だけれど、ぺんぺんの表情はほとんど「無」で……。うーん、ぬいぐるみの時からだったけど、表情読めないなー。ぺんぺんは。
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