第3話 モルの大聖堂

「何から何まで本当にありがとうございました」


 私は馬車から降りてニートンと馬車の窓から顔を出したラジアンに深く頭をさげながらお礼を言うとラジアンは軽く手をあげてうなずき声をかけてくれる。


「リアさんとやら、現実に負けず頑張るのだぞ。もし、どうしても仕事が見つからなければ商会に来てみるがいい。適正次第では雇えるかもしれんし、無理でも何処かに紹介できるかもしれんからな」


 ラジアンがそう告げるとニートンも軽く会釈をしてから商人専用の門へと馬車を進ませた。


(親切な人たちだったな)


 いきなり異世界へと転生させられてあんな場所にひとり取り残されてしまった時はどうなるかと思っていたが本当に運が良かったと思う。


 私はラジアン商会の馬車が商人専用門をくぐるまで見送ってから一般門へと向かった。


 門では入街手続きをする役人が街に入る人を次々と捌いているのが見え、私はニートンから教えてもらったように銀貨の準備をして列に並ぶ。


「――ここはモルの街、南門だ。入街料は銀貨一枚になるが問題はないか?」


「はい、大丈夫です。ところで私はこの街に初めて来たのですが教会はどちらにありますか?」


 私が入街料を支払うと役人は質問に答えてくれる。


「この大通りを北に向かって歩いて行くと大きな領主館があるのでその手前の東西に伸びる大通りを右に曲がった所にあるぞ。建物は他の街と同じだからすぐに分かるはずだ」


 建物は他の街と同じだと言われても他の街の教会を見たことが無いのでさっぱりなのだがこの場でそれを言うと怪しまれるかもしれないのでとりあえず礼を言って街に入ることにした。


 街は賑わいをみせており、あちらこちらから商売をする声や会話を楽しむ声が聞こえてくる。


(思っていたよりも大きな街なのね。いろいろ見てみたいけど先ずはあの管理者が言っていた教会を見つけないと……)


 私はそう考えて役人が話してくれた道を北へと歩いて行くと大きな建物が見えてくる。


(おそらくあれが領主館なのだろうな。やっぱりどこの世界でも金持ちや権力者は大きな家に住んでいるものなのね)


 私はそんなことを考えながら役人に言われたように手前の大通りを右に曲がると現代でも見たような建物が目に飛び込んできた。


(ああ、多分あれが教会なのでしょうね。確かに分かりやすいわ)


 私は息を吐いてから気持ちを整えて教会へと足を踏み入れた。


「――モル大聖堂へようこそ。本日はどのようなご要件でしょうか?」


 私が教会に入ると関係者と思われる女性からそう声をかけられた。


「えっと、教会でスキルに関して教えてもらえると聞いたのですが……」


「固有スキルの鑑定ですね。ではあちらの三番の札があるカウンターで手続きをしてから奥へお進みください」


「ありがとうございます」


 私は女性にお礼を言うと教えられた三番のカウンターへ向かう。


「固有スキルの鑑定ですね。こちらの書類に必要事項を書いて鑑定料金を添えてお出しください」


 そう言って受付嬢は書類を私の前に置いた。


 幸いな事に言葉に続き文字も読む事が出来て内心ホッとしながら書類をひとつずつ埋めていった。


「これで良いですか?」


 私は一通り書類を埋めてから鑑定料金の銀貨3枚をカウンターに置く。


「確認いたしますので暫くお待ちください」


 受付嬢はそう言って書類の確認を素早く済ませると確認済のサインを書いて戻してくる。


「確認致しましたのでこちらの書類を持って奥の部屋、3の札が貼ってある部屋にお願いします」


 私はうなずいて書類を受け取ると奥の部屋へと歩き出した。


(いよいよ私の固有スキルが分かるのね。仕事をするのに便利なものだと嬉しいんだけど……)


 そう考えながら三の札が貼ってある部屋に入った。


「鑑定の間にようこそ。書類を貰っても良いでしょうか?」


 部屋に入ると祭壇の上に聖職者の服を身に着けた女性が話しかけて来たので先ほど渡された書類を差し出した。


「本日は固有スキルの鑑定依頼ですね。固有スキルについての説明は必要でしょうか?」


「はい。宜しくお願いします」


 聞けるものは聞いておかないと知らない事は出来ないので迷う事なくそう答えた。


「では、基本だけですが」


 彼女はそう前置きをしてから話し始めた。


「固有スキルとは人間が神様から授けられたとされる特技になります。大きく分けて戦闘スキルと生活スキルに分けられており戦闘スキルの持ち主は衛兵や騎士への登用の他、冒険者として各地のギルドに出された依頼をこなす方もおられます」


「なるほど。生活スキルの人はどうなのですか?」


「生活スキルを授かった方は職人になる方やそれぞれのスキルに見合った仕事をされる方がほとんどですね。百聞は一見にしかずと言いますので実際にスキルを授かった後に教会からアドバイスを受ける事が出来ます」


「なるほど。親切なんですね」


「固有スキルは神様からの授かりものですので神様を信仰する教会とすれば当然の行為です」


 彼女はそう言って手を胸の前で併せて祈りの仕草をした。


「分かりましたので鑑定をお願いします」


 私がそう告げると彼女は祈りを続けながら返す。


「では、そこの椅子に座られて目を瞑ってください」


 その言葉に私はうなずいて祭壇の前に置かれた椅子に座って目を閉じた。

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