第19話 アクシス・ムンディ【5】


「………そうだな。おぬしの言う通り、エルフ王たるわし不甲斐ふがいないばかりに起こっている事態やも知れぬ」


アーロン陛下は里和ちゃんに視線を送ることなく、そのままこの大広間の中央にある玉座と思しき大きく立派な席へと向って歩き始めた。


両側には巨大な柱が対をなして並んでおり、さしずめギリシャやローマにある神殿のように見える。


うーん、何だろう?

このお城の妙な統一感の無さは……。


私が全く関係のない事をぼんやりと考えていると、里和ちゃんは鼻息も荒く───私にはそう見えた───堂々と私見を述べだした。


「そこまでとは申しませんが……世界中の権力者達が自分の既得権益きとくけんえきばかりを優先して行動してるから、ですよね? 陛下お一人が孤軍奮闘こぐんふんとうされたところで出来ることは限られますし、悪意のある為政者いせいしゃなどが相手じゃ骨折り損のくたびれもうけになるばかりでしょうから」


うっわー……結構なこと言ってんなー。


私は目を白黒させながら戻って来た蘭丸さんとライカちゃんの近くにそそくさと避難する。


相変わらずライカちゃんは美女エルフ師匠と霜威そういのエルフ王を、ハラハラした様子で見守っている。


里和ちゃんの従者ヴァレットであるスレンダー美人の蘭丸さんは、私を見ながら肩をすくめる───こんなの毎度の事だから、的な感じのあきれた表情だ。

彼女の従者になった当初はこんな事があるたびに止めに入っていたらしいのだが、最近はバトル直前までは静観しているとの事───まあ、止めても大抵たいてい無駄な結果になるらしく。


つか、いさかうまでって、いいのかそれで……。


何だか嫌な予感しかしない。


それでもアーロン王はゆっくりと玉座に腰掛けながら、怒った風もなくあっさりと同意した。


「そうだな。しかしそれは、いずれの国や世界におる既得権益支配層であっても大なり小なりは同じ事だ。一概いちがいに悪い事とは言えぬし、責められぬ」


エルフ王のもっともな言葉に私も内心同意する。

世の中ただのキレイ事だけじゃ動かないだろうし、回りもしないだろう。


ヒトにも国にも色んな事情がある訳だし、誰もワザと悪いことをしようと思ってやっている連中もいない……と言うより、少ないと思いたい。


「ですね。それでも私は強い権力を持つ立場の方たちには、私腹ばかり肥やさず、少しでも国民やしいたげられている者たちのために動いてもらいたいと考えております。例え偽善と言われようとも。それとも世界の強欲な権力者や為政者は、下々の者が死のうが地獄に生きようが、自分達さえ良ければ痛む心も無いとおっしゃるのでしょうか?」


くまでも毅然きぜんとした態度でそう主張するうるわしき美女エルフ。

以前の彼女もそんなところはあったが、流石にここまで意志つよではなかったはずだ。


何をどうしたらこんな風になってしまえるのだろう?


この世界ニウ・ヘイマールに来てからの彼女の苦労が垣間かいま見えた気がした瞬間だった。


ところが、その理由はあっと言う間にエルフの王様によって証明される事となる。


「ならば魔法使いドルイダスリワ・エイル・ギネヴィア───儂の名においてこのアールヴヘイム、ひいてはニウ・ヘイマールを救うため、今一度頼まれてはくれないか?」


……なるほど。

里和ちゃん、この世界ニウ・ヘイマールの救世主伝説だったのか!

お前はもうs……ゲフガフゴフガフ!!


っつー事は、まさか───!?


背筋がぞわっとする。


しかし当の彼女の返事はと言えば───


「えー、もう嫌ですよ。前にもお断りしたじゃないですか」


急にいつものくだけた口調でそう答える里和ちゃん。


私はその彼女の言葉に大きく目を見開く。


ちょ、それってアリなん?


「あたしはこの世界ニウ・ヘイマールでやらなきゃならない事があるんです。いくつかゲッシュを立ててるんですよ」

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