第20話 アクシス・ムンディ【6】


げっしゅ?

何ソレ……??

ダンディ○野じゃなく?

立ててるって、フラグみたいなもん?

フラグだったら───


ついつい怖い考えになり思わず頭を振る。


どっちにしろ、何か面倒事を押しつけられそうになったら、普通にお断りしてもいいのか?

いや、それとも里和ちゃんが特別だからって事なのかな。


取敢とりあえず無理難題を吹っかけられたら断ろうかと私が決心していると、エルフの王は里和ちゃんのあんまりな態度にあからさまに大きく溜め息をいた。


「それは分かっておるのだが……お主はそれほど強大な魔力と実力と名声までもを持っておるのに、何故なぜこの世界を救うために生かそうとせぬのだ」


へぇー……里和ちゃんってマジでそんなにすごい魔法使いなのか。

まぁ、これまでのみんなの話を聞いている限り、この世界ニウ・ヘイマールの救世主くさいし。

所謂いわゆるすでに『賢者』の方向?


そんな私の増える疑問をよそに、美女エルフは憤慨ふんがいした様子を隠そうともせず、はたから見るとかなり無礼千万ぶれいせんばんな態度でエルフの王に正面切ってたたみ掛ける。


「なぜって、逆になんであたしが強欲で自分勝手なニンゲンばかりのこの世界を救うがあると言うんですか? この世界に呼び戻されたは、もう十分果たさせて頂いたと思うんですけど───第一、それ以上に今までだって散々、アーロン様をお助けしてきましたよ? この『光芒こうぼうの宮殿』だって三日三晩寝ずに、あの頃はたった一人で、頑張って詠唱して顕現けんげんさせたじゃないですか!」


え、この城って里和ちゃん作なの……!?

だから城のデザインに統一感がなかったのか!

納得なっとく


後々のちのちヴィンセントさんから聞いた話なのだが、このアールヴヘイムの崩壊を止めるための呪文が込められた魔法陣を組んで造られたらしく……里和ちゃん、おっかな怖ぇえー。


「ですので、アールヴヘイムには流石さすががございますから最低限のご助力はしむつもりもごさいません───が、ことこの世界ニウ・ヘイマールの政治的厄介事やっかいごとに関しましては、陛下のお立場でを果たしていって下さい。無論、陛下の身に危険が及ばぬよう、ヴィンセント様やわたくし達も陰ながらお助けいたしますゆえ、このたびのマーガレット様に異世界人をした件は、また別の機会にして頂きとうぞんじます。まだ彼女は病み上がりで本調子ではありませんので」


その割には病み上がりな私を、体力的にも精神的にもかなーり振り回してくれてる気がするんだけども。


に、しても、なんだ、やっぱ……かなり特殊な感じみたいなのがまたまた引っ掛かるんだよなぁ。


すっかりアーロン陛下をへこませ、威風堂々いふうどうどう私達の所に戻って来た鬼のような美女エルフに、私はこっそり耳打ちする。


「……里和ちゃん、エルフ王にあんなこと言っておいて、実は思っきし私の件、王様に責任転嫁てんかとかしてない?」


すると美女エルフはニヤッと悪い笑みをらす。


「───バレた?」


あくどっ!




×××××××××××




行きは怖々こわごわ、帰りは早い───


里和ちゃんの魔法で恐ろしくあっと言う間に『光芒こうぼうの宮殿』から外に出た私達は、当初の目的地であるミズガルズにやっと向かう事となる。


城の中では3時間もってはいなかったと思うのだが、何故なぜか外はとっぷりと日が暮れていた。

真っ暗なアールヴヘイムの森に銀色の月明かりが木々の隙間すきまから差している。


もう夜半を過ぎているのだろうか?

あれだけいた妖精たちの気配などが全くせず、やけに辺りは静まり返っていた。


月明かりがあるとはいえ足許あしもとが見えにくいので、美女魔法使いドルイダスと可愛い魔導師見習いの二人がそれぞれの魔杖ワンド柄頭ポメルから照明代わりのトーチの呪文ケナズを唱えた。


ほわんとしたクリームイエローの明かりが周囲を淡く照らしだす。

皆の少しほっとした表情が見えるようになり、それだけで更に私も安心する。



しかしこの時間感覚のおかしさ───どうにかならないモンかねー……。


私が気が遠くなっていると、急に背中をバシバシと何かが叩いてくる。


「痛い痛い痛い!」

「元気を出せ、若人わこうどよ!!」


持っている大きめのオーク材の魔杖ワンドの柄頭の先についているクリスタルらしき石から放たれる明かりに、白い歯をきらめかせながら美女エルフが哄笑こうしょうしていた。


一体誰のせいだと───つか、あんたとは同い年だろ!


「里和ちゃん、だいぶ性格変わってない?」

「そりゃあねー、ここに戻って来てからかれこれ……200年は経ってるからねぇ。神経も太くなれば性格も多少悪くなるよ〜」

「多少ねぇ……って、200年!?」

「今、ソコ、驚く?」


なぜカタコト風に言う……?


「色々驚きすぎて、脳ミソがついていってなかっただけだよ」


その時だった───


ザッと頭上から何かが降ってくる音がしたかと思うと、ヴィンセントさんのよく通る声が響き渡る。


「リワ!」


私は里和ちゃんに突き飛ばされて何かに激しくぶつかり、そのままその何かに担ぎ上げられるようにしてその場から急速に離されてゆく。


えっ、何!?


大きく揺れる視界の中、黒づくめの集団に里和ちゃん達が囲まれ、いつの間にか手にしていた武器で応戦しているのが見えた。


「里和ちゃん───!」

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