第13話 アールヴヘイム【5】


それはそれは、夢のような妖精たちの舞踏会だった。


いつの間にか手にしていたルーン文字が施された魔杖ワンドを振り、里和ちゃんエルフが流露りゅうろに舞い踊りながら詠唱を始める。


その詠唱に合わせ、ヴィンセントさんがリュートをロッカーよろしく華麗で軽快なダンスメロディーで演奏し、それに歓喜しながら呼応する千姿万態せんしばんたいに踊り狂う妖精たち。


「おい、メグの顔でマヌケ面して口をポカンと開けてんじゃない」


その冷や水を浴びせるぶっきら棒な声に、私は一気に現実世界へと引き戻される───と、言うか、私にとってココはあるイミ現実世界ではないが……。


左手で口をふさぎ、眉をひそめながら声のした方に視線を移すと、もうすでにお馴染みと化しているカイルなにがしの不機嫌そうな目がにらんでいる。

私がこちらへ来てからと言うもの、この人はいつもこんな調子であった。


何でそうこわいんだ、この人は……。


夢見心地を一蹴され、私はそのままくるーりと正面に視線を戻した。


一体私が何をした───!?


いやきっと、彼にとってはマーガレットさんを殺した極悪人にしか見えていないのであろう。


何て理不尽な……。


っつーか、そんなに嫌だったら何でこの人は気づくと私のそばにいるんだ?

黙ってりゃ結構なイケメン君なのに、こっそり鑑賞する事も出来やしない───ちなみに、兄であるヴィンセント氏はよくこっそりと鑑賞させて頂いております。

それぐらいの楽しみでも作らないとこのおかしな状況、まともについてなどいけない。


あぁ、ホント残念なイケメン君だ。


そんな愚にもつかない事をつらつらと考えていると、何かが私の袖を引っ張ってきた。


「ねぇ、いっしょに踊ろうよ!」

「そんなシケた顔してないでさ」

「みんなで踊れば楽しいよ!」

「みんなでうたえば仕合しあわせだよ!」


気づくと私達の周りに妖精がキラキラと群がって来ている。


ぬぉ、いつの間に!?

っつーか、他の皆も一緒に踊ってる───!


緋色の髪のイアンさんはまるで盆踊りみたいな格好で、それでも楽しそうに……イヤ、里和ちゃんをながめながらデレデレしてた。


里和ちゃんの従者ヴァレットである蘭丸ランマルさんは、ヴィンセントさんのリュートに合わせてそのスレンダーな長身をしなやかに舞わせている。


魔導師見習いのライカちゃんはおどおどしっぱなしで、自分の身長ほどの魔杖ワンドを、妖精たちを蹴散けちらすように振り回しながら踊って(?)いた。


当然、カイル某氏は仏頂面の仁王立ちで私の背後に立ったまま、妖精たちの誘いを無視し続けている。


「なんだコイツ、かわいくないな!」

「コレ、まえに来たときもこんなだったね」

「ノリ悪かったね」

「いつもノリ悪いんだね!」


口々にささやきあう妖精たちの言葉に、思わずぶっと吹き出してしまっていた。

その私の態度にカイル某はぎろりと一瞥いちべつすると、そのまま明後日あさっての方向に視線を投げる。


おぉう、くわばらくわばら。


「こんなの放っといて、いっしょに踊ろう!」

「いっしょに楽しもう!」

「でもキミ、まえ来たときと髪の色ちがうね」

「ホントだ、目の色もかたっぽちがうよ?」


えっ、どういう事だ?

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