第12話 アールヴヘイム【4】


私が再度悲鳴を上げながらカイルなにがしに地面に降ろしてもらった所で、不意に緑の濃い芳気ほうきまとった風が私達の周囲をざあっと吹き荒れ始める。


そんな話を聞いたからか、にわかに辺りが騒がしくなりだしていた。

何だか空気感までもが光を浴びてキラキラと輝き出しているようだ。


うふふふふ………


あはははは……………!


うん、何かこんなお伽話とぎばなし、小さい頃読んだことある。

笑っちゃうぐらい鬼のように定石おきまりが出てくるヤツ。


木漏こもれ日揺らめく木々の隙間すきまから。

虫たちも舞い飛ぶ草花の陰から。

石を押し退けた土の中から。

きらめくそよ風の中から。

輝く光のハレーションのまぶしさの中から。


気づけば続々とカラフルな妖精たちが、からかうような笑い声と共に姿を現し始めた。


うわー………無茶苦茶メルヒェン。


可愛いのやらちょっとおっかなそうな外見の連中まで、続々と里和ちゃんが立っている小高い丘の方に集まってきている様に見える。


そしてその丘から淡いミルク色の不思議な光が、にじむような光彩を放ちだしていた。


ほんじゃしたっけ香月かづき化したメグとカイル君が仲良く戻って来たところで───」


そのあからさまな美女エルフのおちょくりの言葉に、私の眉はぴくっと痙攣けいれんする。


ったく、イチイチ引っ掛かる言い方だな!

どこをどう見たら仲良く見えるんだよ。

ほら、カイル某君が苦虫にがむしつぶしたような顔になってるし───って、まだそばにいたのか!


気づくと緋色ひいろの髪のイアンさんがカイル某氏の右側に立っていて、ニヤニヤしながら軽く彼の黒髪の頭を小突いていた。

それを少しだけ背の低い黒髪の青年がにらみ上げ、軽くその手を払い除ける。


何なんだ、この流れは。


流石にスーパーウルトラ鈍臭どんくさい私でも、いい加減カイル某と私以外の連中がどういう意図でそうしてるか、薄ぼんやりと気づいてはいた。


だからって、カイル某が中身のガラッと入れ替わった得体の知れない相手に簡単になびく訳がない。

つか、私がそんなの御免被ごめんこうむる。


しかしそんな私の静かな憤悶ふんもん他所よそに、やけに明るい調子で里和ちゃんが高らかに宣言する。


早速さっそく皆で踊ろうか! ヴィンさん、音楽よろです!」


───何ですと?


「はいよ!」


するとヴィンセントさんが待ってましたとばかりに返事をしたかと思うと、白の繻子サテンに金糸で華腴かゆな刺繍の施されたマントの中から、どこに仕舞しまっていたのかリュートを取り出し、みやびなメロディの和音をかき鳴らした。


えぇえぇえ───!?


「|Are you guys ready !?《やれるか !?》 Let’s do it! !!さあ、いくぜ !!


私達を取り囲んでいた妖精たちも一気に歓声をあげる。


何、このにわかコンサート会場は!?


私は開いた口がふさがらなかった。

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