第11話 アールヴヘイム【3】


何ですと───?


里和ちゃんの素っ頓狂す とんきょうな声に、はっとして顔を上げた瞬間、足が何かに引っ掛かりぐらりと上体が前方に傾く。


やっば、転ぶ……!


観念して目をつぶると、その私の体をふわりと何かが包み込んだ。


う?

転ばんぞ!?


その事実にびっくりし、ぱっと目を開けると自分の胴体を誰かが後方から抱えてくれている事に気づく。


「………大丈夫か?」


耳元近くから聞こえる低めの声に、今度はギクリとする。


このぶっきら棒な声は───


私の事を嫌っているカイル・F ・レイフ氏だ!


「あ、ありがとうございま………すっ!?」


私が慌ててその腕の中から逃れて礼を言ったその時、今度はそのままの勢いで後方に倒れ込んでゆく───かと思いきや、びぃーんと両上腕に何かが絡みつきそのまま上方へと引き上げられる。


ぎゃあぁあっ!?


すると舌打ちする音と共に、その私の目の前にカイルなにがしが跳び上がって来るや否や、私の体をやんわりと受け留めたかと思うと、そのまま近場の太めの木の枝に忍者よろしく着地する。


私はただただ瞠目どうもくする。

そして我知らず彼の腕の中で拍手喝采かっさいしていた。


すごいっ! 忍者みたいっ!!」


無論、カイル某は深く溜め息を吐きながらガクリと項垂うなだれれた。


「………ヴィンも同じ事言ってたな」


え、ヴィンセントさんも?


「おーい、二人共だいじょうぶ?」


気づくと下の方で皆が私達を見上げている───ってか、結構な高さの場所にいる事に気づいた。


「わぁっ、高いっ!」


今度は思わず全身ほぼ黒づくめの相手にしがみつく。

カイル某はビクリとし、その勢いでバランスを崩しそうになりながら私の背後にあった何かを掴んでいた。


「あっ……ぶな、何やってんだ!」


その心底呆れ返ったような憤懣ふんまんやるかたない言葉の調子に、一気に血の気が引いてゆく心地がしていた。


そうだ、私この人に嫌われてたんだ───!


「ご、ごめんなさい……」


どうして良いか判らず、おろおろしながら取敢えず再び身を離そうとすると、カイル某はほんの一瞬寂しそうな表情を見せ、なぜか再度私の背後に手を伸ばす。

反射的に身を引こうと動くと、彼は静かに右手でそれを制した。


「いいから、そのまま動かないで───からんでるつた、取るから」


え、蔦?


驚いて自分の体に視線を落とすと、両腕と胴体になぜか蔦が絡みついていた訳で。

これが私を吊り上げたのか、と得心とくしんする。


……って、何でだ?


余程表情に出てたのか、珍しく寡黙なカイル某が説明のために口を開いた。


「妖精たちの悪戯いたずらだよ。あんたが引っ掛かったのは一番原始的なガリトラップと言えるかもな。最初来た時にはライカが同じような目にってたよ」


えー、見習いとはいえ魔導師のライカちゃんが?

てっきりまた自分の運の悪さが発動したのかと……。


ちなみに、後ほどそのライカちゃんから教わる事になるのだが、ここで言うカイル氏の『原始的ガリトラップ』とは、草を結んだっこに人の足を引っ掛けて転ばせようとする程度の他愛のないモノらしい。

なので、それ以上の害はないとの事。


そうほっとしたのも束の間。


「だからリワもよく、あんたに色々やってるみたい、だろ?」


………?


……………………。


………………………………… !!


「おーい、早く降りといでよー。早くしないとフェアリーリング消えちゃうよ!」


下の方から当人が焦れったそうに大声でそう急かしてくるのだった。


ちくしょー、里和ちゃんめ……覚えてろよ!

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