第10話 アールヴヘイム【2】


「あのー、ちょっといても?」


幾筋ものつたが絡みつく鬱蒼うっそうとしたアールヴヘイムの森を歩き続けて早一時ひととき───こんな場所に王宮があるとは思えない私なのだが、里和ちゃん御一行様は全然気にしてはいない様子。


先頭に里和ちゃんの従者ヴァレット蘭丸ランマルさん、美女エルフと化したらしい里和ちゃん、緋色の髪の竜騎士・イアンさん、エルフ王の甥っ子のヴィンセント氏、魔導師見習いのライカちゃん、トホホな私、殿しんがりは私を鬼威嚇いかくした黒髪のカイルさんという並びになっている。


そんな中、里和ちゃんは生欠伸あくびを押し殺したみたいな表情のまま私の方を一瞥いちべつし、気怠けだるそうに返事をしてきた。

気のせいか緋色の髪の青年が、その彼女を見て一瞬だけ表情をだらしなく緩ませたように見えた。


なぁに───?」

「今どこへ行こうとしてるんだっけ?」

「今回お世話になったエルフの王様に会いに『光芒こうぼうの宮殿』へ」


あ、間違ってなかった。

つか、思った以上に遠いかも。


その上、今更ながらみんな結構な重装備で歩いている気がする……。

所謂いわゆる、中世北欧のファンタジー世界でよく見る感じの冒険者風の格好だ。


本日の里和ちゃんは豪奢な銀髪プラチナシルバーをポニーテールにして赤紫色の組み紐で結び、白のキャバリアブラウスにキャメル色の革のハンティング風ショートベスト、同じく革の濃紫こむらさきの小さめのショルダーバッグを斜め掛けし、黒のデニム生地っぽい細身のボトムに太めの革ベルト、膝丈の茶革のレースアップブーツ、極めつけはフードつき黒のドルイドマントと言う出で立ち。


相変あいかわらずおしゃれだな、とつくづく思う。


高校の頃から所謂いわゆる流行りのスタイルとかを追うタイプではなかったのだが、彼女なりのポリシーがあり、常日頃から自分に合った格好を心掛けていたのを私は知っている───多少、独特クセつよ感はあったが。


私は私で、何せこの世界の事は全然さっぱりすっかりちっとも判らないので、取敢とりあえず彼女に一式任せたら───


白のサテン地に金糸で刺繍ししゅうを施された、前立てと襟袖えりそでにオーガンジーのフリル多めの黒のボウタイつき立ち襟ブラウスに、黒革で太めの編み上げサッシュベルト、グレージュのベルベット生地で細めのボトムに黒の長めのキャバリエブーツ、パールホワイトのベルベット地のフードつきマントといった仕上がりになっていた。


うぉう……!

何、この湧き上がるヅカ感。


鬼のように抵抗はあったが、他に白のネグリジェしかなかったので黙って着ることにした、が───その時の里和ちゃんのニヤニヤは一生忘れないであろう。

私が嫌がるのを判っててやってるのだからタチが悪い。


そしてそのヅカ服(多分違)に着替えた直後、里和ちゃんに用があって偶然入って来た仏頂面のカイル某が、思い切り驚愕きょうがくしたままよろけていたのが印象的だった。


そんなに私が嫌いなんスかねぇ……。


「久々に可愛い香月メグが見られて嬉しいんでしょ?」


里和ちゃんがけたけた笑いながら、最後に私の髪を編み込んでシルバーの髪飾りをつけてくれた。

カイル某はむうっとした表情になり、何も言わずにそのまま出て行ってしまった。


「……何か里和ちゃんに用事あったんじゃないの、あの人?」

「あったんでしょうねぇ」


ようやくこの美女エルフを里和ちゃんだと実感し始めた昨今、こんなシチュエーションに遭遇するたびまだまだ自分がメグ───マーガレットと呼ばれる事に違和感ありまくりな私だったりするのだが。

ヴィンセントさんは気をつかって『真夜』と呼んでくれてはいるが、その都度つど周囲の人の微妙な反応に正直うんざりもする。


ひとつ溜息をき、そんな事を思い出していた矢先であった。


「あったよー、フェアリーリング」

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