第7話 ティル・ナ・ノーグ【6】


美女エルフと化した里和なにがしが、放置プレイをしていた皆とやらと一緒に戻って来たところで、室内が一気ににぎやか、と言うよりどこか物々しい雰囲気と化していた。

心なしか約1名、変に殺気立った人が混じっているからかも知れない。


しかし、さっきはド派手に魔法で消えた割に、今回はなぜか普通にドアからドヤドヤと入って来ている。

もしかすると集団転移魔法とか出来ないの、か?


その連中は無遠慮に私が寝ているベッドをぐるりと囲み、喧々囂々けんけんごうごう思い思いにしゃべりだす。


「ほ、ホントだ……!オイ、良かったな、カイル!」

「………」

「ちゃんとあたしが言った通りになったでしょ」

「わ〜、メグちんだぁ!! 良かったね、ヴィンセント様」

「いや、彼女はメグじゃなく───」

「え、違うんですか?」


左から武人と思しきガタイがいい冒険者風の青年が二人、自称里和ちゃんのエルフ、ひょろっと背高いおきゃんな女性、魔導師見習いっぽい格好のあどけなさの残る少女、私の兄になってしまった美青年エルフといった並びで。


えぇえぇー……勘弁して〜。


私はまたも内心頭を抱えながらその面々をぐるりと眺める───と、言うより、私の方が珍獣を見る目で検分されてしまっていたと言った方がいいかも知れない。


うぅ、何でこんな目に……。


あいも変わらず訳が判らないまま、自分がオカピにでもなったような気分を味わわされていた。

ついでに頭の中を『□ゃん□ゃらおかP音頭』がリピートしだす……あぁ、懐かし過ぎる。


「ま、とにかく、メグっちが体面上戻ってきた所で、そろそろここティル・ナ・ノーグから出ようと思うんだけど」

「先を急ぐんですね、師匠」

「イヤ、そういう訳でもないんだけどさぁ……ここってまったりし過ぎてて変化がないのがね〜」

「だな。早くあっちミズガルズに戻ろうぜ」

「ちょっと、リワ、このメグは───」

「うん、ただのメグじゃ〜ないよ? 君らのためにスペシャルに生まれ変わってる……ハズ」


美女エルフがフフンと鼻で笑いながらちらりと私を一瞥いちべつする。

それに私はぎくりとした。


何だよ、その意味不明なプレッシャーは!?


このがこういう態度をとる時、大抵たいていロクな事にならないのはこれまでの経験上、イヤと言うほど判りきっている。


ってか、それよりも───


この和やかと言っても過言ではないメルヘン空間で、入って来た時からずっとたった一人だけ、私をギンギンににらんでくる人がいるんですが……。


一番左端に陣取っていた冒険者風体ふうていの二人の武人のうちの一人───カラス濡羽色ぬればいろの黒髪、肌は日に焼けてなのか浅黒く、意志の強そうな太めの眉は多少困惑気味にひそめられ、人を射抜くがごとき切れ長の双眸そうぼうはブラックオパールのような輝きを放って見えた。


つか、この人無茶苦茶ムチャクチャ怖いんですけど……。

何でそんなさげすんだ目つきで私をにらむの?


身長は目つきの悪い黒髪の青年より、右に並んで立っている比較的筋肉質な緋色ひいろの髪の青年の方が多少高いが、ひょろりと背高い痩身そうしんに黒髪の青年はまるでモデルみたいに手足が長く、まとう雰囲気もどこか気品があってイケメンと言っても過言ではないのだけれども……自分に向けられた敵意が全てを台無しにしてくれていた。

またヴィンセントさんと違うタイプの男前だけに、その謎の憤怒ふんぬには余計な迫力がある。


当の黒髪の青年はおびえた私の様子に構わず、情の薄そうに見えるその唇を開いて言うことには───


「俺、あんたがメグだなんて、絶対認めないから」


ひぃえぇえぇえぇ……⁉

今度はイケメンにすごまれた!


私の心はムンクの叫び状態だった。


怖いコワイ恐いこわいっ!!

いや、ぶっちゃけおっしゃる通りなんですけど!

私はマーガレットさんじゃなく、香月真夜なんですから───!!


するとそこで、私達以外の和気藹々わきあいあいな空気が一変し、ピィーンと音が聞こえるように空気が張り詰めた。

それまで笑っていたはずの美女エルフの目がわっている。


その彼女の能面のような静かな怒りの波動に、一気に背筋に怖気おぞけが走る。


こっ、この目は……!?

すわ、やめてくれ、里和ちゃん───!

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