第6話 ティル・ナ・ノーグ【5】


「じゃ、皆を放置プレイしたおびにあたしが呼んでくるよ!」


里和ちゃんと思しきエルフがテヘペロした後、手を振りながら一瞬にして私達の前からかき消える。


その信じられない光景に私はびくりとし、また思わず上体を起こそうとしてしまったのだが、途端に体に稲妻いなずまみたいな痛みが走り、当然身を起こせずそのままベッドに沈み込んで苦悶くもんの声を上げた。


ったく、何だ、あの無駄にあざとい態度は!

しっかし、この体の痛みって、一体……?


「だ、大丈夫ですか!? メグ……じゃありませんね、えぇっ……と、カヅキ、さん───?」


かたわらの鮮麗せんれいな美青年がオロオロしながら口を開く。

二人きりになってしまったメルヘン成分過多の室内で、多少ドギマギしながら私はちらりと美声の主に視線を移した。


いっやー、見れば見るほど綺麗な人だなぁ。


我知らず見惚みとれながら、まさか里和ちゃんと思しきの彼氏かなんかなのだろうか、と内心ゲスに勘繰かんぐってみる。


まさかなぁ……里和ちゃん、渋好みだったハズだし。

あ、もしや、エルフだから1000歳とか優に越えて───たとしても、俳優の△林薫さんとは全然タイプが違うスーパーウルトライケメンだしなぁ。


考えても仕方しかたなし、と苦笑しながら私は自己紹介する事にした。


真夜まよです。香月真夜───あ、マヨ・カヅキと言った方がいいの、かな?」

「では、真夜さん。無理しないで。私はヴィンセント・グリフィス・オハラと申します。リワの話だと貴方は僕らとは違って、彼女の魔法で無理矢理側へ引っ張ってきたらしいので」


うーん?

さっき美女エルフが同じような事言ってたけど……。


「それってどういう───?」


「普通はこんな魔法ことも、してや一介いっかい魔法使いドルイダスがたったひとりで出来る芸当でもないんです。何せ、彼女自らが編み出した方法なんですから」


何ですと?


「えーと、ソレって、私の他にも同じような人とか」

「貴方がです」


うん?


?」

「はい、今回の『対人入魂魔法』の成功例になりますね」

「……ん〜??」


つまり、何かであらかじめテストした訳じゃなく───と、言うより、私でいきなり実験的にやってみた、的な?


本当マジですか?」

本当マジです」


高雅絢爛こうがけんらんな美青年エルフが鬼真面目な表情でそう答える。

それもまた絵になるのだから美形は得だ。


失敗したらどうするつもりだったんだ、あのムスメは……。

つか、失敗したらどうなってたんだろ?


また背筋がうそ寒くなる。


と、それより───


「あの〜……私、ずっとなんですか、ね? そもそもは何なんですか?」


すると相手は綺麗な金眉をわずかにひそめ、その通る美声で非常に言いづらそうに口を開いた。


「真夜さんには申し訳ないが、恐らく貴方はこちらの世界ニウ・ヘイマールにいてもらわなければなりません」


その流露りゅうろな言葉に頭をガツンと殴られたような気がした。


う? 妹!?

この体、この人の妹さん───!?

うわ、私にこんな美しい兄が出来るとは……じゃなくって、やっぱ元には戻れないんだ……。

つか、ニウ・ヘイマールって、何処どこですか?


薄々そうじゃないかとは思っていたが、自分が思ってる以上に自分がショックを受けてるのを遠くの方で感じていた。

とは言え、現状が異常過ぎて実感はまだまだ追いついていない感じだった。


「……なぜ、こんな事に?」


思わずそう呟くと、私の体の主マーガレットさんの美麗な兄が、心底申し訳なさそうにその聴色ゆるしいろの薄めの唇で訥々とつとつと話し始めた。


「本当に真夜さんには謝っても謝りきれません……原因は私の父にかけられそうになった死の呪詛じゅそ魔法のせいなんです。結果、関係のない貴方を巻き込んでしまう形をとるしか方法はなく───それとリワが、貴方が一番適任者だと非常に強くしてきまして」


はぁ、とかなり気の抜けた返事をしながら、なぜか私は全く別の事を考えてしまっていた。


ってか、『対人入魂魔法』って名前、地味にダサくない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る