第1話 回想
「私、結婚するんだ」
会うなり突然の宣言に、私は思わず飲んでたジャスミン茶を吹き出した。
ここは宮益坂方面の昭和臭が漂うリーマンだらけの喫茶店の一角だ。
彼女は小田急線、私は埼京線だったので、私より少し遠い場所に住んでいる里和ちゃんに譲歩して、
それでも場所がらジャスミン茶がメニューに普通にあったので一も二もなく注文し、最近そのリラックスする香りにハマっていた私が好きな飲み物をひと口飲んだ瞬間だった訳で。
そんな私の反応に、謎のカミングアウトをしてくれたまだ少女のあどけなさを残す相手は、苦笑しながら吹き出したモノを焦っておしぼりで
私は軽くそれを左手で制し、恥ずかしい自分の不始末に更にわちゃわちゃしながら残りを荒々しく拭き去った。
しっかし、いきなり何だよ、この
そんな気配など
もっぱら私と会う時は、「○○○と言う作家の本が面白かった」だの、「△△△主演なのに✕✕✕って映画はイマイチだったね」と観た洋画の話だったり、「今度ラフォーレのバーゲンつき合って」みたいな、多少は近況もぼつぼつ話しはするけど終始こんな調子だった訳で。
基本、文系ヲタの私達だったので、彼女にそんな色恋の気配があったなんて、正直、ちっとも思っていなかった。
それに理想が結構高めの、意識高い系女子だと思っていたし───いや、今思えば、高校の頃ほのかに恋心を抱いていたと
とは言え、悲しいほどそんな気配のない
「……え〜っと、ソレは、どう言うコトかな?」
「どう言うもこう言うも、そのまま」
「イヤ、ソレは判ってるんだけどね?」
「あれ?
ええ、アナタの
高校の時だって、渋めのバイプレイヤー俳優さんが素敵、だの、ハリウッド俳優の
私が眉をひそめたまま黙っていると、彼女は
「これはね、
えぇえ……?
私が
「自分でも判ってる。でも、私が決めた事だから」
えー……私の言おうとした事マジ判ったの?
私が困惑して口をぱくぱくしていると、
「だから、何も言わないで」
彼女は静かに私の言葉を断固拒絶する。
一体何があったと言うのか?
×××××××××××
「えー、
不意に頭上から目の前にいたはずの里和ちゃんの声が降ってくる。
何か、微妙にエコーがかってる。
……はっ!?
途端に今まであったはずの世界がぐにゃりと気持ち悪く歪んだ。
そして、足元が消失したかのように真っ暗な、霧に似た闇へ体が吸い込まれてゆく。
それも猛スピードの。
いっ、やーーーーーーーーーー!?
怖い恐い怖ぁあぁ〜〜〜いっ……!!
私はフリーフォールが嫌いだ。
理由などない。
生理的に駄目なのだ。
死ぬほど嫌いだ。
「あら〜、そうだったんだー。ゴメンね〜。でも、もうちょっと頑張ってー」
超のん気そうな里和ちゃんの声が、微塵もそうは思ってなさそうな声音でそう追い打ちをかけてくる。
馬鹿
「もうちょっとって、どれ位なのーっ!?」
脳ミソから魂が抜け出る感覚に襲われながら、思わずそう叫ばずにいられない。
耳元をゴウゴウと吹き抜ける強烈な風の音に
「もうちょっとは、もうちょっとだよ〜。でも、ココは時間の
相も変わらず
どう言うコトだーーーっ!?
その間にも無限地獄に
底無しの恐怖。
息が
し、しぬ……しぬんだ、きっと……!
「うん、あっちでは死んでる事になってるよ。ごめんね、殺しちゃって〜」
───!!
美麗なエルフに刺された光景が
えっ……ソレって!
「もうちょっとで会えるから、心配しないで」
そんな明朗とも言える言葉と共に、いきなり
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