第9話 アインソフ(天地創造)
新作を出したグループを優先させてしまいましたが、本来はこのグループから紹介するつもりでした。キングレコードのネクサスレーベルのプロデューサーのたかみひろしさんが、レーベルの第1弾として出したいと思っていたというグループの『アインソフ』です。このグループも『KENSO』、『アストゥーリアス』と同じようなインストゥルメンタルのグループです。3回連続でインスト系グループとなりましたが、『KENSO』は、ややフュージョン色があるようなタイプ、『アストゥーリアス』がニューエイジ色を感じるタイプで、それに対して『アインソフ』は、所謂カンタベリー系の影響を強く感じるようなジャズロックの匂いがするグループと言ったところでしょうか。マニア以外にはどうでもいい話かもしれませんが。
相変わらず前置きが長いですが、多分、プログレが好きな人の特徴でしょうね。ヌメロ・ウエノさんも、たかみひろしさんも同様でしたので。
まずは、たかみひろしさんについて少々説明します。たかみさんによる『ネクサス物語』というエッセイから参照すると、学生当時はロックのレコードを求め毎日、『巡礼の旅』をしていたようで、そのうちに自分でも何か書いていきたいという事で『ブリティッシュ・ロック・マガジン』というロックのミニコミ誌を作っていたようですが、それがレコード会社の目に止まり、いきなりライナーを任されたりしたそうです。他にもレコード会社や大手の音楽出版社からの誘いもあったという事なので、当時から才能があったのでしょうね。そしてキングレコードに入社しますが、2年程で他の仕事もやりたいという事で退社。在籍中には、『ムーディー・ブルース』、『キャメル』、『キャラバン』といったプログレ色の強いグループを担当していたそうです。
余談ですが、その頃、ヘヴィメタル界の有名人である伊藤政則さんと雑誌を出していた事もあるそうです。
そんな中、雑誌のファンだったという、山本要三さん(YOZOX)という人から手紙とデモテープを貰います。山本さんのグループである『天地創造』のデモテープは、当時のプログレのエッセンスが詰まったようなような音楽で、日本にもこんな音を出せるグループがいたのかと感心したようです。それからやり取りをし、東京での『天地創造』のライブに一役買ったりしたとの事。そして何とかしてレコードを出してあげたいという思いで、仲の良かったキングレコードのディレクターに相談したところ、それが上層部にまで進み、キングレコードのロック担当として、たかみさんが来てくれるなら、可能性はあるという事になったとの事。まぁ失礼ながら、売れるかどうかわからないようなグループぐらいしか思われてなかった感じです。結局、キングレコードに出戻りとなり活動する事となった、たかみさんですが、苦労は絶えなかったようです。
営業によると、『天地創造』だけで売り出すのは弱いので、レーベルを作った方がいいのではという事になり、キングレコード内にレーベルが作られる事になりました。変な名前にされたら大変と、ここはレーベル名は自分で決めると主張して、まだどこも使っていない名前を捜し、決めたレーベル名は『ネクサス』。しかしながら順風満帆とはいかず、キングの営業は乗り気でない様子。地味目の音楽では売れないのではと判断され、派手な感じのグループと一緒に売り出せばと言われる始末。そんな顛末もあり、リハーサルは進むものの、レコード発売の予定は未定の状態が続きます。
『天地創造』というグループ名は固い感じがするし、アルバムのタイトルみたいだとの意見もあり、グループ名は『アインソフ』へと変更もされています。
そしてネクサスレーベルの最初の契約グループの3グループに選ばれましたが、第1弾としてデビューしたのは、『ロッキンf』のテープコンテスト優勝の肩書を持ったグループの『ノヴェラ』でした。プログレというよりもヴィジュアル系の始祖というべきグループかもしれませんが、『ノヴェラ』の人気が出て注目を集めた結果、『アインソフ』や『DADA』のデビューがスムースになったのは皮肉なものです。
ようやく前置きが終わりましたが(長い)アインソフは、ようやく1980年6月にファーストアルバム『妖精の森』を発売することになりました。『天地創造』の結成が1970年代初頭ですので、結成からレコードの発売まで10年程かかった事になります。(その間、何度も活動停止はしていますが)
https://www.youtube.com/watch?v=YcEEgj2ml8s
1曲目の『クロスファイア』から山本さんのギターが炸裂する感じで、これがたかみさんも感心したというカンタベリーの香りのするロックかと。2曲目は小品といった感じですが、それ以降は長めの曲が続きます。そしてレコードのB面をほぼ使った『組曲・妖精の森』は20分近い大曲で、プログレファンにも人気が高い曲です。ただ評価は高かったかもしれませんが、ヒットには程遠かったと思います。
たかみさんの発言によると、レコーディング時にメンバーが失踪する等、トラブル続出だったそうです。加入したばかりの服部眞誠さんと前からのメンバーの対立があったりもしましたが、服部さんはそれでも自分の仕事はしっかりこなしています。結局すぐに脱退し、『フォーナイン(99.99)』というグループで真価を発揮することになりますが。服部さんがウェザーリポートのようなフュージョン色の強いものを好んだのに対し、他のメンバーはカンタベリー系のようなジャズ色の強いものを好んでいたので、これは仕方なかったのかもしれませんね。
その後はセカンドアルバムの製作も立ち消えとなったりして活動停止状態でしたが、1986年に復活しアルバムを発売します。タイトルは『帽子と野原』。何と言うか、カンタベリー系の重要グループである『ハットフィールド&ノース』からそのままいただいた感じですね。特に1曲目の『白鳥の湖』は雰囲気がよく出ていますね。個人的にも好きな曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=gIeIkru1MLU
因みに、『ハットフィールド&ノース』の『ロッターズ・クラブ』というアルバムは、思わずジャケ買いしたくなるジャケットが印象的な名作です。カンタベリー系の凄腕ミュージシャンがメンバーだけの事があります。メンバーのリチャード・シンクレアは、後に来日した時にアインソフのライブにゲスト出演した事もあったりします。
https://www.youtube.com/watch?v=lf1KSUMFCH0&t=2067s
これは人によって好みが分かれる感じの音楽です。ちょっとニュアンスは違うかもしれませんが、言ってみればブルーチーズのようなものですね。クセは強いけれど、人によってはこれがいいと夢中になるものです。ダメな人にはトコトン、ダメな感じかなと。それに対して『アインソフ』は、日本人好みのフレーズも使用したりして、聴きやすくはなっているかなと。
その後は、『天地創造』時代の曲を再録音したり、忘れた頃にアルバムを出したりとマイペースな活動をしています。発掘ライブアルバムも、マーキーから数種類発売されています。スタジオ盤とはまた違った魅力があるので、探したい所です。
近年ですと2018年にアルバムを出しているようです。メンバーも高齢になっていますので、今後ライブをやるかどうかはわからないですが、またライブを見てみたいグループですね。
余談ですが、普通の人には縁のなさそうなカンタベリー系の曲ですが、もしかしたら聴いた事があるかもしれないという曲があります。プロレスラーの前田日明さんが使用していたテーマ曲の『キャプチュード』という曲が、『キャメル』というグループの曲だったりします。『Nude』というアルバムに収録されていますが、テーマ曲としてシングルも発売されました。新日本プロレス時代の会場使用曲では、マシンガンの音が被さっていたりしますが、会場で流れると盛り上がった感があります。プロレスのテーマ曲の選曲のセンスはなかなかのもので、音楽好きの担当が多かったんでしょうね。プロレスのテーマ曲に関しては、今後しっかり調べてエッセイにでも出来ればと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=xsunQ2f1dC8
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