中編
ホワイトデー用に、キャラメルは作ったわ。作りはしたのよ。
けど多分、木葉が作るやつの方が、味も見た目もいいはず。私の方が良くできてるなんて、そんな現実を見ないようなまねはしないの。
バレンタインの時もそうだったけど、プレゼントの内容にそれだけ差があると、なんだか悪い気がするのよね。
全然、釣り合いがとれてない。
そこで私は考えた。質で負けてるなら、数で勝負すればいい。キャラメルと、別の何かを合わせてプレゼントしたらいい。
でも、もうひとつ作る余裕はない。あと、これを思いついたのは昨日だったから、新しくお菓子を買う時間もなかった。
だったら、今日これからクレープを奢ればいい。
ここのクレープは美味しいし、その後おまけとして私の手作りキャラメルを渡したら、総合でさっきもらった木葉の手作りマカロンにも見劣りはしないだろう。多分。
それを湯前さんに話したら、なぜか思いっきり変な顔をされた。
「釣り合いね。木上くんならそんなの気にしないで、朝霧さんの手作りってだけで喜ぶと思うけど」
「そ、それはそうかもしれないけど、私ばっかりいいものもらってばっかりじゃ、さすがに悪い気がするのよ」
これも、木葉が料理上手なのがいけないのよ。そうじゃなかったら、こんなに悩まなくてすんだのに。
「でもさ、それならキャラメルのこと、なんでそこまで必死になって、話さないでなんて言ったの? キャラメルはキャラメルで、渡すつもりなんでしょ」
「それは、そうだけど……」
「ああ。最後にサプライズとして渡して、喜ばせようと思ったとか?」
「ち、違うわよ!」
確かにキャラメルを渡すのは最後にするつもりだけど、別にサプライズとか喜ばせようとか、そんなつもりはないから。
むしろクレープの後だと、どうしたって見劣りするじゃない。
それでも、わざわざ湯前さんに話さないでってお願いしてまで最後に回す理由は、ちゃんとある。
「もしも、もしもよ。最初にキャラメルを渡して、それからクレープを食べに来たとするでしょ」
「うんうん。それで?」
「そんなことしたら、ここに来る途中でも、クレープ食べてる間も、木葉に『志保が俺のために心を込めて作ってくれたキャラメル、嬉しいな。幸せ〜』なんて言われ続けるかもしれないじゃない」
「…………は?」
「そんなの、考えただけで恥ずかしい!」
長い付き合いだからわかる。
木葉のやつ、私が恥ずかしいからやめてってどれだけ言っても、その手のことを言うのをやめようとはしないの。
今日一日ずっとそんなことになるなんて、とても耐えられない!
これを話すのも恥ずかしかったけど、湯前さんも、わかってくれたわよね。
って思ったんだけど、なぜか湯前さんは、さっきよりもさらに変な顔をしていた。
「あー、はいはい。惚気ね。そういえば、あなたたちってバカップルだったっけ。邪魔しないから、あとは勝手にやっといて」
の、惚気? バカップル!?
ちょっと待って。今の話の、どこをどう聞いたらそんなことになるの!?
そうして湯前さんは、呆れたように去っていく。
待って、待って────ああ、行っちゃった。
そうしてそこには、私と、少し離れたところにいる木葉の二人だけが残った。
「どう、志保。湯前さんとの話、終わった?」
「う、うん。一応……」
どういうわけか、バカップルなんて言われて去って行ったけどね。
なんとか誤解をときたいけど、原因がわからない以上、すぐに何とかするのは難しそう。
学校で会った時に、ゆっくり話をする方がいいかも。
それよりも、今は本来の目的を優先させた方がいいわよね。
「そ、それより木葉。早くクレープ食べに行きましょうよ」
「そうだね」
こうしてちょっとのハプニングがあったけど、とりあえず無事にクレープは食べ終えた。
もちろんその間、手作りキャラメルのことは一言だって話さない。これを話すのも渡すのも、最後の最後にするんだから。
あと、クレープを食べてる途中、私の頬についたクリームを木葉がと拭って、すっごく恥ずかしいことをしていたけど、それは恥ずかしすぎて思い出すだけでもうわーってなりそうだから、記憶の奥底に封印することにした。
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