僕の大好きなあゆみ KAC20245

愛田 猛

僕の大好きなあゆみ KAC20245


僕は猛。大学生だ。

僕の彼女、あゆみは可愛いし、僕のことを大好きでいてくれる。

僕は幸せ者だ。



僕たちは、手を繋いで、池の周りを散歩していた。

池には看板が立っていた。


「ミドリガメを池に放さないでください」

ミドリガメは外来種だ。育つと、池の自然が破壊さてしまう。


「こういうことをする人がいるから困るのよね。亀が可哀そうとか思うなら、最後まで面倒みるか、原産地まで持って行って放せ!って言いたいよね。」


同意を求められても困るなあ。まあ、祭りの夜店で亀を買う子ともやその親は、そんなこと考えないんだよな。


「知らないんだから仕方ないだろう。これから、そういうことをちゃんと教育したり、宣伝したりしないとね。」僕はとりなす。


でもあゆみはまだ不満顔だ。

「猛は、わたしより、ミドリガメを池に放すような無責任な女の肩を持つの?」


無茶苦茶な言い方だよね。そう。あゆみには、大きな問題がある。

彼女は、僕を束縛するんだ。



僕らは手を繋いだままこんな言い合いをしながら池の周りを歩いていた。すると、二人の間に、前から子供が割り込んできた。僕は自然に手を離した。

すると、あゆみは言うんだ。


「私の手を離さないで!」

「まあ、ちょっと離しただけじゃないか。また繋いだら、もういいだろう。」僕は言う。


でも彼女はまだおかんむりだ。

「離さないで!」


まあ、それはいいだろう。

だけど、この前、たまたまクラスの女性、井出さんとレポートについて立ち話をしていたら、それを目撃したあゆみは言うんだ。


「ほかの女から色目を使われて、鼻の下伸ばしてるよね。もう、彼女とは話さないで。」


一事が万事、こんな具合だ。


寂しがりやで、怒りんぼで、泣き虫で、嫉妬深い。


つまり、こういうことなんだろう。

「私を怒らせたり泣かせるようなことは、為さないで。」ってね。



一般論としてはそうしてるつもりなんだけど、ただその基準が厳しすぎるんだ。

大好きだから許してるけど、そうでない女から言われたら張り倒しそうだ。


僕には関西出身の友人、サトシがいる。

この前、井出さんと立ち話して、あゆみに怒られたので、その後、説明もしないで井出さんを避けている、ということをサトシに相談した。


すると、サトシはいう。

「井出に説明しとらんのやて? そらあかん。話さな、井出と。


やっぱりそうだよね。どこかで、あゆみと一緒に井出さんに話そう。難しいかな。


僕は英語ができない。でも、アメリカ帰りの佐内さんは読み書きとも得意だ。

彼女はよくこんな署名をする。 名前と苗字を逆の、Hana Sanai で。

格好いいな。でも、あゆみに怒られるから言わない。


僕は宇宙が好きだ。でも、英語ができない僕はたぶん、NASAの宇宙飛行士なれない。

でも、きっと100年後の僕の子孫なら、もしかしたら僕の夢をかなえてくれるかもしれない。


サトシに、そんな話をした。

そうすると、サトシはこんなことを言うんだ。「子孫にNASAの宇宙飛行士になってほしい?でも、多分、100年後には NASA 無いで」


まあ、それもごもっともではある。




さあ、今日もあゆみとデートだ。

カフェの窓際の席で、あゆみは、機嫌よくフルーツパフェをつついている。僕は、にこにこしながらそんなあゆみを見つめつつ、ブラックコーヒーを嗜んでいる。


隣のテーブルに、イケメンの男と、のっぺりした顔の田舎くさい、いや素朴な女の子が座っている。


聞くともなしに聞こえてくる、田舎ことばの女性の声が。


「おめえ、高い鼻好きだべ?おら、鼻さ 無いで。」


謙遜なのか何なのか、よくわからないけど、二人の幸せを祈ろう。

ただ、二人に同じ幸せが来るとは限らないけどね。


僕にはあゆみがいれば、それでいいんだ。

僕は、やっぱり、あゆみを離さないでいたいんだ。



(あゆみ、愛してる。僕は君を離さないでいるよ。)


僕は心の中でそうつぶやいて、コーヒーをもう一杯おかわりした。







===

エッセイ風に洒脱な文章を書ける人に憧れます。

古くは植草甚一、田中小実昌。もちろん村上春樹や沢木耕太郎とか。


あ~前の二人は古すぎかな。ま、いいですよね。


お読みいただき、ありがとうございました。

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特に短編の場合、大体が一期一会です。


袖すりあうも他生の縁。

情けは人のためならず。


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…もちろん私が最初に幸せになるんですけどね(笑)。




















「僕の大好きなあゆみ」はダブルミーニングですね。

Hana Sanaiさんはたぶん金髪です。

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