第4話

 

「……ん」


 眠りと覚醒の境目。


 私は昔からアラームが鳴る前に、これを知覚することができる。


 昔はスッキリと起きて朝食や仕事の準備をしていたのに、ここ最近は起きてしまうのが億劫で。


 けれど今日は迷うこと無く覚醒を選んだ。


 寝起きはいつもいい。


 眠さを引きずる事もなくパッと目が覚めて、スッと起きることができる。


 横目で隣を確認するとベッドの上には横を向いて未だ眠り続ける雪乃の姿があった。


 見知らぬ人間のベッドだというのに随分と熟睡している。


 可愛らしい寝顔だ。


 私もそこまでの年齢ではないが、十代の寝顔は眩しい。


 体を起こして大きく伸びをしたら頭が冴えた。


 時計を見ると朝の六時。


 アラームを全て止めて布団から起き上がる。


 部屋を出る前にもう一度確認した雪乃は深い寝息を吐いていた。


 先ずはいつも通りに顔を洗う。


 意識ははっきりしているし、尾を引くような眠さはないが顔は毎朝洗うものだから。


 顔をタオルで拭いて鏡を見ると二十代前半、年相応の顔が映っていた。


 次いで昨晩干した洗濯物を取り込んでいく。


 エアコンが温め続けた部屋は室温が高く、冬特有の乾燥と相待って全ての洗濯物がカラカラに乾涸びていた。


 雪乃の制服は取り込むと同時にアイロンをかける。

 

 シワはそのままにしておくと、取れにくくなるからだ。


 数分スチームアイロンで伸ばし、シワのなくなった制服を確認するが見覚えのない物だ。


 やはり雪乃はこの辺りの学生ではないだろう。


 そう思いつつハンガーにかけた制服を、雪乃の上着と同じ場所に並べた。


 最後に朝食の準備を始める。


 私は朝食を欠かさない。


 お腹が空くわけではないが、昔は毎朝お母さんが準備してくれていた。


 感傷に浸ってあの頃の日常を踏襲しているだけだ。


 早起きも、洗濯も、朝食も。


 正直に言って今の私には必要なものでは無い。


 だけど、全てを無くしてしまったら、私が私では無くなってしまいそうで、とても怖い。


 開けた冷蔵庫は、冷蔵庫特有の匂いがする。


 食材の臭いではない、冷蔵庫の匂い。


 薄暗い明かりに照らされた冷蔵庫の中から卵を二つとベーコン、そして食パンを取り出す。


 電気コンロにセットしたフライパンを熱しながら、食パンをトースターに入れる。


 久々にトースターで二枚焼きをしながら温まったフライパンにベーコンを載せる。


 油は引かなくても、元々焦げ付きにくいフライパンだし、ベーコンから十分な量が出る。

 

 少しカリカリになった程度のところでベーコンを取り出して、弱火にしてから卵を二つ割って入れる。


 蓋をしてまたフライパンを放置している間に、トースターがベルの音と共にトーストを弾き出した。


 それを取り出してベーコンとは違う皿に盛り、トースト用の個包装バターを二つ取り出してテーブルに並べた。


 そうこうしていると卵に適度に火が通ったようなので蓋を取り外して、ベーコンを並べた皿に一つずつ載せた。


 これで朝食の準備もほぼ終わりだ。


「……あの、おはようございます」


 すると朝食の匂いにつられたのか、タイミングよく起きていた雪乃が私の後ろから声を掛けてきた。


「おはよう。タオルは出してあるから顔を洗っておいで。朝食にしよう」


「はい」


 私がそう言うと雪乃は小さく返事をして洗面台に向かった。


 それを見送って箸置きと箸とナイフをフォークを出した。


 最後にグラスを二つ出してその中に冷蔵庫から取り出した麦茶を注ぐ。


 私の家は年中麦茶を作り置きしておく家なのでこれを切らした事はない。


 透明な茶褐色に濁りが無いことを確認してテーブルに並べて、朝食の準備が終わった。




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雪の降る日に君は @himagari

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