君が僕を好きなことを知ってる 番外編・ホワイトデー

みこ

番外編・ホワイトデー

 ホワイトデーという日は、バレンタインデーほどじゃないにしろ、周りがソワソワとしている。

 バレンタインと違って、バレンタインにやりとりした人にしか関係ない行事だ。


 だから、ソワソワとしている人も限定されている。

 バレンタインにチョコを渡した女子だとか、バレンタインのお返しを渡そうとしてる男子だとか、はたまた、意中の人が……もしくは何処かの誰かがホワイトデーのやりとりをしてるんじゃないかと目を光らせている人だとかだ。


 高坂礼央は、もちろん亮太にバレンタインを渡してはいない。

 そんな行事に参加できる関係ではない。

 だから、ホワイトデーは関係ない……とは思いつつ、亮太が誰かにお返しを渡すのかどうかは非常に気になるところだった。


 ……それで、誰かと付き合う事になったりなんかしたら…………。


 礼央は虚無の顔になる。


 亮太と付き合えるとは思っていない。

 告白するつもりもない。

 亮太が誰と付き合ったところで仕方がない。


 けど…………。


 目の前でそんなやりとりを見る事になるのは正直辛いところだった。


 できれば見たくはない。

 なんなら、高校の間は誰とも付き合って欲しくはない。

 せめて、何処か離れて見えなくなってからにしてほしい。


 そんな風に思ってしまう事自体……、諦めているつもりでも、覚悟は足りないのかもしれない。




 そんなわけで、1日中、亮太の方は見ないように頑張ってはいたのだけれど、どうしても気になって目で追ってしまっていた。


 …………つらい。


 放課後、今日も二人で公園を回って帰る。


 今日は誰かにお返ししたのかなんて、聞ける話でもない。

 ……聞きたくも、ない。


 モヤモヤとしながら、亮太の横顔をこっそりと眺める。

 礼央の方が少しだけれど背が高いので、亮太の前髪の揺れがよく見える。

 そんな風に、公園に入った時だった。


「あ」

 亮太が、声を上げた。

「お菓子買わないといけないんだった」


「え…………」


 今から?

 買うって、今から?

 いや、今ってことはホワイトデーとは関係ないかも……。


「今日、ホワイトデーじゃん?」


 …………ホワイトデーだった。


「……誰に?」


 ここで、誰に、とか聞いてしまう自分に心底がっかりする。

 結局、僕は、みかみくんの幸せを願う事すら、うまく出来ないでいる。


「妹?と母さん」


 …………家族かぁぁぁぁぁぁ。


 あからさまに、ホッとした。……情けないけれど。


 けど……、うん。義理とはいえ。家族とはいえ。みかみくんから貰えるなんて……、正直羨ましい。


「なんか元気ない?」

 聞きながら、亮太がこちらを向く。

 心配、しているにしてはなんだか楽しそうだ。

「……別に」


「ほら、れおくんには、これ」

 そう言いながら亮太は、スティック状のお菓子の箱をバリバリと開けた。

「ん」


 差し出された箱から、一本取って口に咥える。

「ありがと」


 本当に、心底嫌になるんだ。

 こんな事で、嬉しくなってしまう自分が。


「おいしいね」


「そうそう、期間限定のやつ見つけてさ」

 亮太が、嬉しそうに笑った。


 礼央は、ひとつため息を吐く。

 パキンと割れたチョコレートの味が、口の中に広がった。

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