第105話 5月、初の連戦ウィークの終了
2019年5月5日(日) 高知市内居酒屋 <三原 洋子>
参加してくれた皆さんの緊張がほぐれたみたいで良かった。それに千佳ちゃんの参加も嫌がる人がいなかったのも嬉しかった。人によってはこう言った場に関係者が参加するのを嫌う人もいたりする。だから、千佳ちゃんの参加は最後まで迷ってしまいました。
でも、今の様子を見てると皆さん楽しんでくれてるみたいだし、千佳ちゃんも楽しそうで何より!それにしてもヴァンディッツの話題を振っただけでこれだけ盛り上がるんだから、普段から皆ヴァンディッツの話をしたかったんだなぁって分かる。
「今日の試合、はっきり言って県1部は少し苦戦も予想してたのに終わってみりゃ4対0。1部も問題なくクリア出来そうですよね。」
「中堀選手が怪我した時はマ~ジで心配したけど、今の所FWに全く心配ない感じですからね。飯島選手は東京遠征が相当自信になったのかな?かなりプレイに安定感が出た気がするんだよなぁ。今日の2得点も見事だったし。」
「そうですよね。あのミドルなんて去年では一度も見なかったのに。急に今年から多用し始めて、実際点も取れてますもんね。」
確かに初戦でいきなり中堀選手の離脱はキツかったよなぁ。でも、飯島選手はもちろん他のFW陣が穴を埋めるって言うより、今まで以上にアピールをするようなプレイが増えた気がするなぁ。
「何より伊藤選手だろ!?凄いよ。あの選手は。間違いなく八木君は伊藤選手を意識してるよね?去年と違って良い意味でプレイに必死さが出た気がするよ。」
「分かる!ある意味ポジションが確約されてた去年と違って、今年は伊藤選手がメインで使われる事が多くなったから、かなり競争意識は芽生えてるよね。」
bandanaさんと浩伸君が伊藤選手の話で盛り上がる。他の皆もうんうんと激しく頷いてる。私はどこまで話してくれるかは分からないけど千佳ちゃんに話を振ってみる事にした。
「伊藤選手って前の大阪SCでも結構結果を出してたと思うんだけど、どうしてヴァンディッツのセレクションを受けてくれたの?」
皆は「え?関係者にそんな事聞いて良いの?」って顔で見てます。千佳ちゃんは話せない事は言いませんけど、と断りを入れた上で事情を説明してくれました。
「皆さんもHPでご存じだとは思いますけど、伊藤選手は高知県の安田町出身なんですよ。本人もセレクションの面接のときに話してたそうですけど、Vandits安芸の活動が高知県東部が中心だと言う事で以前から注目してくれていたみたいです。それでどうしてもこのチームでJリーグを目指したいと大阪さんの慰留を断って合格かどうかも分からないうちのセレクションを受けてくれたようです。」
皆から「おぉ~....」と感嘆の声が漏れる。それぐらいヴァンディッツに対して思い入れがあって加入してくれたって事だよね。嬉しい!
「どの選手にもJリーグと言う夢はありますが、伊藤選手の場合は他の選手と違ってもっとこう....どう言えば良いか、現実問題と言うか、行けたら良いなでは無くて、行く為に足りない物を常に探している感じと言いますか。それは岡田選手もそうなんですけど。」
「やっぱりプロを経験してる選手はより現実感があるだろうな。」
「それはあると思います。やはり初期からいる選手達からするとJリーグに行くと言っても、それは先が見えない道を歩き続けるようなもので、あっ、それは私達運営もそうだったんですけど。でも、伊藤選手や岡田選手は運営面は分からなくても、少なくとも選手としてJリーグ入りをする為の経験や知識は他の選手よりも相当豊富な物があります。それを今は必死に皆が吸収してる感じでしょうか。」
皆ワクワクしながら話を聞いています。他にも来週には東京遠征での練習試合やホテルでの選手の様子を伝える『VanditsROOM』の配信が決まっているそうです。久しぶりの姫の出演もあるそうです。
皆さんそれぞれに推し選手がいて、その選手の話になると饒舌になるのは私も同じ。こうやって集まる事が出来て良かったぁ!全員明日の練習試合も観戦予定なので深酒にならないように二次会はお酒抜きのカラオケに行こうと言う話になりました。そこでふっとpandaさんから出た疑問。
「あのぉ、山下さん。Vandits安芸にはテーマソングみたいなのは無いんですか?」
全員がピタリと動きが止まります。確かに。そう言えばどうして作ってないんだろう。全員が千佳ちゃんに注目します。千佳ちゃんは少し気まずそうに答えてくれました。
「これに関しては広報部や営業部でも何度か話は出てたんです。でも、運営からGOサインが出なくて。まぁ、理由はお話出来ないんですけど、そこは私達も納得してるのでサポーターの皆さんにはお待ちくださいとしか言えないんですよね....」
「あっ、でも検討はしてくれてるって事なんですよね?」
「はい。それはもちろん。」
「じゃぁ、気長に待とうよ。J入りするまでには欲しいけどねぇ。」
「そうそう。まずはしっかり四国リーグ入りを掴むトコからだよね。」
千佳ちゃんを気遣ってかあまりその事は深堀りしませんでした。まぁ、今はチャントとコールで盛り上がれてるしね。
・・・・・・・・・・
2019年5月6日(月・祝) ごめんなはり線 車内 <熊井 美祢子>
昨日のオフ会楽しかったなぁ。そんな事を考えながら列車に揺られます。ごめんなはり線。高知駅からVandits fieldがある芸西村の『和食駅』までゆったりと列車は進みます。赤岡駅を過ぎると進行方向右側に雄大な太平洋が見え始めるんです。
沖に島なども無く、ただただ雄大な海が広がっています。今日の天気のおかげで海は心地よく青に染まって少し開けた窓から潮の香りを運んでくれています。
この3連戦の初日と今日、ごめんなはり線に乗ってスタジアムへ向かう車窓でこの太平洋の景色が一番大好きなんです。これから試合に向かう気持ちを一気にアゲてくれる。
「こんにちわ。」
急に声を掛けられ驚いてそちらを見るとbandanaさんだった。既にVanditsユニフォームに着替えて準備万端です。
「あっ!おはようございます。昨日は有難うございました。楽しかったです。」
「こちらこそ。また集まりたいですね。人数が増えても楽しそうですし。」
「はい!あっ、良かったらどうぞ。」
空いている隣の席を勧める。bandanaさんは会釈しながら席に座りました。
「凄いですよね。この景色。この快晴にきれいな海。これから試合。テンション上げるなって方が無理な話ですよね。」
「はい。私も思ってました。ホントにこの景色は望んで作れるモノじゃないですもんね。」
「いやぁ、スタジアムまでのこの景色込みで芸西村選ん........でるわきゃないか。」
二人で笑います。思わぬ副産物だとしてもこの景色は間違いなくサポーターの気分を上げてくれる。いくつかのトンネルを抜けて列車は『和食駅』に到着しました。
初日はここから県道まで歩き、待ち構えるタクシーに乗り込んだのですが、bandanaさんは更に歩き始めます。
「あの、タクシーに乗らないんですか?良かったら同乗しませんか?」
「あっ!昨日、山下さんから聞いた直売所の工事風景見てみたくて。OPENの頃は仕事が繁忙期なので来られそうに無くて。」
そう言えば!昨日カラオケボックスで広報部の山下さんが教えてくれた。八月末にOPEN予定のデポルト・ファミリアの直売所。かなり工事も進んだって言ってた。
「あそこのコンビニの向かいの道をスタジアム方向に行くと道沿いにあるらしいんですよ。そのまま歩いてスタジアムに行こうかと。」
私はタクシーの運転手さんに断りを入れてbandanaさんと一緒に歩き始めます。長閑な田園風景の中に突如現れるログハウス風の横に広い建物。工事は今日はお休みみたいだけど、二人で「ここですかね?」って見渡していると建設許可票が掲示されていて、内容を見るとここで間違いないみたい。まだ店名は決まってないんだ。
駐車場も結構広め。それに裏に小さめだけど畑もある。あれ?誰かいる。えっ!?あれって....
「「望月選手!!!」」
思わず二人で声を揃えて叫んでしまった。すると望月選手、いえ、望月さんはこちらを見てニッコリ笑顔で挨拶してくれた。私達の恰好を見てサポーターだと分かったみたい。
「こんにちわ!観戦ですか?」
「はい!望月さん、何してらっしゃるんですか?」
「ホントは試合の準備行かなきゃなんでしょうけど。来週ここに生姜を植えるんですよ。なので、スタジアムは他の社員にお願いして、ここは自分がって。試合があるからって畑が待ってくれる訳では無いので。」
望月さんは作業しながら説明してくれた。私が動画で見ていたあの厳しい表情の守護神はそこにはいません。楽しそうに畑に畝を作るその様子はもう立派に農家の人に見えました。
「それに今植えとくと、ここのOPEN頃には収穫も出来るかも知れないので、せっかくなら皆さんにも食べて貰いたいし。ただ、うちは食いしん坊が多いので皆さんにまで回るかどうか分かんないですけど。」
そう言って三人で笑う。お話を聞くと農園で作っている野菜類はメインは選手の寮とVandits fieldの宿泊施設『本陣』に使われて、その中で販売に回せる物を直売所で売るんだそうです。
「こっちもしっかり準備しときますから。今日は僕の分も応援お願いします。」
作業を邪魔しないようにスタジアムに向かう事にしました。立ち去る前に写真を一枚お願いしました。畑で土をいじりながら満面の笑顔で写る望月さんは、すごく幸せそうに見えました。
・・・・・・・・・・
同日 Vandits field <有澤 由紀>
『本日もVandits fieldにお越しいただきまして誠にありがとうございましたぁ!!』
GW高知3連戦の最終戦。E大サッカー部を愛媛から迎えて行われた練習試合は1対0で辛くも勝利。しかし、守備・攻撃共に息つく暇を与えない程の両チームの攻防にサポーターからも大きな歓声が沸き上がっていました。
入城者数1431名。GWの最終日で県外へ帰られる方もいた事を考えれば、1000人以上が来ていただけた事は本当に有難いです。私達職員もだいぶ試合運営に慣れてきているように感じます。それでも、ライブ配信はまだまだ至らない点ばかりで緊張もするのですが。
特に今日は一人での配信だったので、試合を実況しながらも両チームの情報も入れつつ進行していると、どうしてもコメントを拾う余裕がなくなります。読んでもらう事を楽しみにコメントしていただいている視聴者の方も多いはずなので、そこの所はもう少し経験を積まなくてはと反省しました。
ライブ配信が終わり、チェアの背もたれに体を預けて体を伸ばします。
Vandits安芸公式チャンネルもライブ配信・動画共に同接数・再生数は安定して来て、来月からはVandits fieldで行われる練習試合の得点シーンやハイライトなどをショート動画としても配信する事も決まっています。広報部とアルバイトスタッフの大学生たちとどう言う動画が受けが良いかを調べながら、これまでの試合のデータからショート動画の試作を作っては日夜検討を続けています。
五月に入りリーグ戦はもちろんですが、ホーム戦でもしっかりと結果を出せているVandits安芸。リーグ戦は勝ち点6、得失点差は7。勝ち点が同じ6の二位のチームとは得失点差で3の差を付けています。
練習試合も様々な選手起用を試しながらしっかりとそれをリーグ戦に結果として反映出来ています。練習試合ハイライト動画やニュースチック配信番組『Vandits village』などでの視聴者の方のコメントなどを見ていても非常に期待感を持ってくれているのが分かります。
「おつかれさまでした。どうぞ。」
北川君が冷たいスポーツドリンクを持ってきてくれた。
「ありがとう。同接はどんな感じでしたか?」
「1万超えたのが一瞬、あとは8000~8500くらいがベースって感じですね。」
「うん。良い数字ですよね。」
「そうですね。登録者数に対しては寂しいとは言えますけど、サッカーで、都道府県リーグで、宗石さんの出演も無くて、公式戦でも無い。と考えれば多すぎるくらいの反響だったと思います。今までが良い数字が続き過ぎましたからね。寂しく感じてしまうだけですよ。」
確かにここまでヴァンディッツチャンネルのライブ配信の同接者数は軒並み良い数字を出していた。それはやはり宗石さんや阿部さんの力が大きいのだと言う事が今日の配信と比較すれば思い知らされる。それが今の私達の力。
「あっ、そう言えば有澤さん。明日、あの打ち合わせですよね?」
「はい。冴木さんにはただ座ってれば良いって言われたんですけど、どうして杉山部長や北川君じゃなくて私なんだろうって。」
「和馬さんの頭の中はなかなか理解出来ませんから。それこそ真子さんや常藤さん、雪村さんじゃないと分かんないんじゃないですか。」
「うぅ~ん。嫌じゃないけどすっきりしないなぁ。」
そんな打ち合わせが待っています。とりあえず片付けしよう。
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