第74話 大評定祭①
2018年12月23日(日・祝) Vandits field <冴木 和馬>
「グラウンドへの順路はこちらになっておりまぁ~す!グッズ販売はこのままお進み頂きますと『
アルバイトスタッフの女の子が元気な声で来場者に呼びかける。
砦入口となる強化プラスチックを使って木材に擬態させた入場ゲートを抜けると、コンテナハウスの受付『登城関所』があり、そこでチケット(今日は入場無料)を見せると中へ入る事が出来る。
中にはグッズ販売をしている『萬屋』、キッチンカーが食事スペースをぐるりと囲んである『陣中食事処』、そして宿泊施設がある『本陣』、体育館の『錬場』、そしてメイングラウンドとなる『
スタッフは全員が背番号12のユニフォームで接客する。いわゆるサポーターナンバーと言われる背番号だ。
来場者の入りは上々。本日の大評定祭は二部構成となっている。小・中学生混合チームのエキシビジョンマッチ(前後半20分)と、高知県東部高校生選抜対Vandits安芸のフレンドリーマッチ(前後半30分)の2試合が一部の構成。
そして、二部は出陣式と銘打たれてはいるが、内容は関係者以外に一切知らされていない。イベント全体は15時半スタートの20時終了となっている。イベント1部と2部の間に30分間のトイレ休憩の時間も設けている。
『こちら関所、こちら関所、14時現在で登城者600名を越えました。定時連絡終わります。』
責任者全員が繋がっているシーバーに定時の入場者の案内が来る。予想以上になって来た。イベント開始まであと1時間半。入場から一時間で600人。大丈夫か。
不安を感じながらも全員がそれぞれの持ち場を懸命に守る。それしか出来ない。俺と常藤さんが常に全体の流れを把握し、遊軍としているスタッフを手薄になった場所へ走らせる。
「遊軍壱乃隊、萬屋援軍に向かってください。遊軍弐乃隊は関所へ。援軍必要ない場合はそのまま城内整理を行ってください。」
雪村くんの完璧な配置で今の所問題は起きていない。トイレに関してもグラウンド内で男女が3カ所づつ、本陣内のトイレと駐車スペースに簡易トイレを5つ構えてある。余程の人が溢れない限りは足りないと言う事は無いはずだ。
俺達はグラウンド施設の二階で全体を見ている。ここからなら入場ゲートからグラウンドまでの人の流れが把握できる。
常藤さんの携帯が鳴る。簡単な会話をして電話を切り、こちらを向く。
「14時5分発の後免駅発ごめんなはり線にヴァンディッツユニフォームの方が15名程乗られているそうです。あと、高知駅でもまだホームでちらほらとユニフォーム姿の方がいらっしゃるそうです。」
「15時半の開始時間に間に合おうと思えば、高知駅を14時16分発の奈半利行きに乗らなくては間に合いません。と言う事は、恐らく乗客のピークはそこまでです。よし、バス班に連絡して予定通り16時和食駅出発分でバスは一旦休憩に入りましょう。」
「畏まりました。」
芸西バスさんからお借りしているマイクロバスは3台編成でずっと和食駅とVandits fieldを往復している。そして16時で一度休憩に入って、19時半からまた運行を再開してもらう。
かなりバタつきながらではあるが、順調にお迎え出来ているようだ。
部屋のドアがノックされる。秋山が入って来る。
「譜代衆の皆様がお見えになられました。」
「分かった。すぐ行く。常藤さん、行きましょう。」
「はい。雪村くん30分、一人になりますが頼みます。」
「あっ、私フォロー入ります。」
「秋山、頼む。」
入り口で入れ替わりながら役目を交代する。俺達の部屋の隣は放送ブースとなっており、そのさらに奥に貴賓室とは呼べないが、ゲストが来ていただいた時に観戦していただく為の部屋を用意してある。
ノックしドアを開けると、譜代衆の皆様が御歓談中だった。
「本日はお越しいただきありがとうございます。冴木和馬でございます。」
「常藤正昭でございます。」
俺達のあいさつの後、他の譜代衆の方々が一斉に笹見親子を見る。そりゃ、そうだ。大スポンサーだからな。
「本日はお招きいただきありがとうございます。笹見建設の笹見正樹でございます。このような立派なスタジアムと施設の建設に関われた事、社をあげて喜んでおります。今後も手を携え、共にチームのご活躍に寄与出来ればと思っております。」
「有難いお言葉で恐縮でございます。」
「坊、ついに来たの。」
やはりこう言った場所でも御大は変わらない。一種独特の雰囲気を携えた徳蔵氏は和装で来られており、本当に見た目は大名のような風格がある。
「長らくお待たせしてしまいました。ようやく皆様に見ていただけるようになりました。」
「ここがお主らの本丸か。まだまだ小さいが良い城じゃ。儂等も手を尽くした甲斐があると言うもんじゃ。」
徳蔵さんの高笑いに皆さんも釣られて笑う。そこから来ていただいた譜代衆の皆さんと挨拶祭りだ。
当然だが今日はこの席では食事とお酒が楽しめるようにしてある。それ用にスタッフも配置している。皆さんに各々ご希望の飲み物が配られ、先に乾杯となった。音頭は当然正樹さんに取っていただく。
「では、デポルト・ファミリア様の御発展とVandits安芸のJリーグ入り、そして皆々様との長らくの共存・発展を願いまして、乾杯っ!」
「「「「かんぱぁ~い。」」」」
そこからはまた御歓談タイム。するといつの間にやらすっと真子が隣におり、そして愛さんもいつの間にか隣にいた。
「和馬さん。まさか真子を高知に連れてっちゃうなんて。酷いわ。食事相手と可愛い子供達が見れなくなって寂しい思いをしてるのよ。」
「愛さん、ごめんなさい。私が無理を言ったの。」
「分かってる。愚痴りたいだけよ。良かったじゃない。お互いに面倒な立場を越えてちゃんと夫婦が出来るようになったんだから。羨ましいわ。」
「あら、愛さんだって仲良いじゃない。いつお会いしてもラブラブで。」
聞いてられない。この手の話は本当に苦手だ。そんな中でも常藤さんは様々な譜代衆の皆さんと話を展開して、今後の更なる協力をお願いしている。
すると、グラウンドにスタジアムMCの声が響き渡る。
『さぁ!皆さま、ようこそVandits fieldへ!!!2018年に誕生したVandits安芸の本拠地スタジアム、サッカー専用グラウンドとなっております!最前列とピッチの間は5.5mとなっており、最高の臨場感の中でサッカーをお楽しみいただけます!』
有澤が場内施設を一つ一つ説明し、来場者を盛り上げる。ゴール裏には既に三原さんや拓斗達が陣取っており、その中には颯一もいる。今からそんなに盛り上がってたら最後まで体力持たないぞ。
・・・・・・・・・・
<冴木颯一・拓斗>
「すっげぇ!!めっちゃカッコイイ!!ヴァンディッツカラーのダークグリーンとライトグリーンで色分けされてる席がカッコいいね。」
「そうだな。でも、めちゃくちゃお客さん多そうだな。まだ30分くらい時間あるけどゴール裏はもう埋まってるし、メインスタンドも半分くらいは埋まってるぞ。」
「そりゃ、そうよ!お祭りだもん!!颯一君もタクも一緒に盛り上げてね!」
三原さんは既にフルスロットル!俺達も負けてられない!!
『本日のスタジアムMCを務めます。広報部の有澤由紀と、』
『アシスタントMCを務めます阿部桜です。』
「「うぉぉ!桜ちゃんだぁ!!」」「復帰っ!?」「「マジかよぉ!!」」
「三原さん、有名な方なんですか?」
「高知テレビでアイドル的な存在だったアナウンサーさん。結婚退社された時には日曜夕方の情報番組を公開放送でやったんだけど、パニック起こるくらい人が集まる人気だった人よ。もうアナウンサーはされないと思ってたけど、冴木さん引っ張り出してきたなぁ。隠し玉はこれだったのかぁ!」
父さんは今回の大評定祭の中でいくつかのサプライズと言うか、隠し玉を用意してるって言ってた。今日限定のグッズがあったり、地元の人気アナウンサーさんの復活だったり、凄い事思いつくなぁ。
『それでは阿部さん、私達もピッチに降りて見ましょうか。』
『そうですね。参りましょう。』
「えっ!?有澤さん見れるの!?マジ!?」
「お兄ちゃん。有澤さん来るよ!!やった!!来て良かった!!」
ヴァンディッツチャンネルでもMCを務めている有澤さんは今まで一度も顔を出されていない。それもあってチャンネル内では秘かな人気を集めていました。
するとグラウンドのメインビジョンがカメラの映像を流し始めます。そこには綺麗な女性が映っていました。会場から「有澤さんだぁ!」と声が上がります。そうか!皆さんは阿部さんの顔を知ってるから、阿部さんじゃないって事は有澤さんって気付いたのか。めちゃくちゃ綺麗な人だなぁ!!
有澤さんと阿部さんがグラウンドに入って来ると大きな声援が起こります。二人は周囲の観客席に手を振りながらピッチ中央まで歩いてきました。
『いやぁ!広い!!さて、皆さん!初めまして!やっと皆さんにお会い出来る日が来ました!!謎のチャンネルMC、有澤由紀でぇ~~す!!!』
割れんばかりの拍手と歓声。僕も知らず知らずに叫んでいました。
『そして、皆さん!高知の皆さんはもちろんご存じでしょう!さくらんが再び皆さんの前に戻ってきましたよぉ~~!』
『皆さま、本日アシスタントMCを務めさせていただきます阿部桜でございます。だいぶのご無沙汰となりました。この度、Vandits安芸さんに御縁をいただき、またアナウンス業に復帰する事となりました。これからは少しづつまた皆様にお会いできる機会があるかと思います。本日は宜しくお願い致します。』
会場から「さくらぁ~ん!!」の声が鳴り響きます。すごい人気だったんだなぁ。
『さてさて、ここからは今Vandits安芸が地元の中学生・小学生と共にサッカースクールを行っているのですが、そのスクール生の皆さんによるエキシビジョンマッチを行います。』
『明日のJリーガー、日本代表を目指す子供達のプレイにどうか熱い声援を宜しくお願い致します!それでは、両チーム入場!!』
2チームに分かれた子供達が入場してくる。僕は拓斗に話しかけた。
「良かったのか?出なくて。」
「良いんだ。ヒロ君とノリと話したんだ。僕たちがこのピッチに立つときはVandits安芸に高校生として挑戦する時か、自分達がVandits安芸に入った時だって。」
「目標高くし過ぎてその前に挫折すんなよ。」
「大丈夫!絶対辿り着く!!」
「タク、カッコイイ!!」
三原さんの声に拓斗が照れる。こいつもちゃんと高知でたくさん知り合いが出来てるんだな。頑張ってんだな。
試合が始まる。一生懸命に走る子供達に大きな拍手が起こる。三原さん達も少し優しめの応援で会場を盛り上げる。皆で手拍子したり、良いプレイがあったら皆で叫んだり。凄く温かい試合だった。
試合終了のホイッスルが鳴った時には冬にも関わらず、選手の皆は汗びっしょりだった。会場からは大きな拍手が送られ、皆周りに挨拶しながら控室に戻っていった。
そして.......
『さぁ!ここからは高知県東部高校生選抜対Vandits安芸のフレンドリーマッチを前後半30分で行います!!』
『まずは高校生選抜の入場です!!』
この高校生選抜の入場で会場の皆が驚いたのは、まさかのVandits安芸のアウェイユニフォームの初お披露目でした!!高校生選抜がアウェイユニフォームを着用しての入場してきたのです。ホームユニフォームとは違い、白地に水色のラインが入ったアウェイユニフォームは青空と雲を連想させるようなデザインでした。
会場のテンションは一気に上がります!まだ隠し玉があったのか。父さん。お腹いっぱいだよ。
『さぁ、皆さま、お待たせしました!!続きまして、Vandits安芸の
すると選手入場口に並ぶように置かれた黒い箱から急に火柱が上がります!会場は悲鳴と歓声が入り混じった大声援!!
『ゴールキーパー!!!望月ぃぃ!!尊ぅぅぅ!!!背番号1。』
「「「「タケルゥ~~~!!!!」」」」
『左サイドバック!!!青木ぃぃぃ!!守ぅぅぅ!!背番号2。』
「「「「まもちゃぁぁ~~~ん!!!」」」」
次々と選手が呼び込まれていきます。その度に観客からは選手コールとスネアドラムと小太鼓の音が響きます。
そして、
『この県2部で一気にチームの中心選手へと駆け上がりました。オフェンシブハーフ!!!八木ぃぃぃぃぃぃ!!!和信ぅぅぅぅぅぅ!!!!背番号9。』
「「「八木くぅぅぅん!!!!」」」「「ノブぅぅぅぅ!!!!」」「「カッコいぃぃぃ!!!」」
流石に八木選手は声援もひと際大きいです。そして10人が紹介され、最後の一人が呼び込まれます。
『Vandits安芸の精神的柱。そしてVandits安芸を生み出した男、ディフェンシブハーフ!!!!及川ぁぁぁぁぁぁぁ!!!司ぁぁぁぁぁぁ!!!背番号7。』
「「「「「「ツ・カ・サァァァァァァ!!!!」」」」」」
会場中の大声援です。及川選手が会場に拍手しながら入場してきました。そして審判を挟んで中央に並びます。
いよいよ!Vandits安芸の本陣初戦です!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます