第50話 配置換え
2018年7月28日(土) Vandits事務所 <冴木 和馬>
「じゃあ、順に発表していくぞ。来週からそれぞれが担当で頑張ってくれ。」
今回の配置見直しで何人かが部署の異動をする事になった。まぁ、リサーチ部も含めて新たに出来た部署もあるから仕方ない。新たな場所で頑張って貰おう。
「まずは営業部。主任は秋山。メンバーは大西、青木、古川、飯島、古賀。もし副主任を置きたい場合は主任判断で決めてくれ。決まったら俺か常藤さんに報告。もちろん置かなくてもかまわない。」
「はい。」
秋山が返事する。
「次にリサーチ部。主任は入手。メンバーは伊崎、塩川、小林、市川。そして営業部の古川が兼任で営業部との橋渡しを勤める。リサーチ部は新設の部署な上に、新メンバーがメインになってる。入手は大変かも知れないが皆でコミュニケーション取って上手く手綱を握ってくれ。」
「はい!」
俺の冗談に驚きながら笑って返事をしてくれた。
「設計・リノベーション部。主任は坂口さん。メンバーは高瀬、冴木真子、雨宮。坂口さんと高瀬にはずっとキツかったと思うが、真子と雨宮の設計経験者が加わってくれたから少しは負担を減らせると思う。また話し合いながらスケジュールは決めていこう。」
「畏まりました。ありがとうございます。」
坂口さんがホッとした顔をしている。ホントに負担が偏り過ぎてたからな。
「次は広報・システム管理部。主任は杉さん。メンバーは北川、山下、有澤、森。ここは一番メンバーの変更が無い部署かな。杉さん、引き続きよろしくお願いします。」
「畏まりました。」
「そして新たな部署だ。施設管理部。これは今後始まる宿泊施設や民宿・ホテルの施設管理を担当する部署だ。運営はもちろんアルバイトの指導まで、やる事はもしかしたら一番幅広い部署になるかもしれない。」
年度末には今まで時間をかけてリノベーションしてきた民宿が3軒、一気に運営をスタートする。それまでにスタッフをアルバイトで募集し教育しなくてはいけない。
「施設管理部の主任は雪村さん。サポート部に入る前の部署に戻ってもらう形になる。ブランクはあるだろうが、期待しての主任だから。頼むよ。」
「全力で貢献します。」
「メンバーは及川、中堀、入船、五月、和田、山口。この部署に関しては副主任は及川にお願いする。雪村さんの負担は大きいけど、構わないからビシビシ指導してね。」
「はい。」
明らかに準備期間は短い。ここは俺と常藤さんもフォローに入る事にはなっている。
「農園部の主任は変わらず望月。副主任は和瀧と大野。メンバーは八木、馬場、尾道、幡、鈴木、岸本。メンバーがグッと減ってしまって申し訳ないが、年末までに農業アルバイトを募集する予定だから、それまでは上手く回してくれ。」
「皆だいぶ慣れて来てますので、西村さんと相談しながらやっていきます。」
「そして、最後に強化部。これは変わらず板垣と樋口だな。今日は二人ともいないが、現状は変わらずと言った所だ。」
これで全員の部署を発表し終えた。施設管理部の経理などに関しては常藤さんが一括して管理する。施設の運営をやりながら経理の管理まではさすがの雪村さんでも厳しいだろう。
「では、そう言った形で皆、よろしく!」
・・・・・・・・・・
同日 会議後 Vandits事務所 <入手 さやか>
冴木社長、あっ!和馬さんか。まさか社長の事を下の名前で皆さん呼んでるなんてビックリ!それに元役員の冴木さんまで真子さん呼び。役職で呼ぶ事が基本禁止なんて、本社のリサーチ部ではありえなかった。
本社も役職で呼ぶ事は原則禁止されてたけど、恐らくそれが守られてたのは管理職クラスから上の人達だけだったはず。少なくとも私のいたリサーチ部で役職を外して呼ばれていたのは統括部長の須田さんとリーダーの徳間さんくらいだった。
課長や班長には役職呼びしなければ明らかに不機嫌な顔をされた。
そう考えるとデポルト・ファミリアの皆さんはホントに当たり前のように名前で呼び合っていて、しかもすごく仲がいい。今だってもう会議終わってるのに女性メンバーだけで事務所でお茶会になってしまった。
しかも、それを和馬さんも常藤さんも咎める雰囲気は全然なくて、なんなら「良かったら俺にも珈琲欲しいなぁ....」みたいな冗談が飛び交う雰囲気。
お茶会は、雪村さん、坂口さん、秋山さん、山下さん、真子さん。そして私、結愛ちゃん、山口さん、雨宮さんの女性メンバーばかり。男性陣はテレビのある方の部屋で男子会らしい。雪村さんと山下さんからは「私達の方が年下ですから、下の名前でフランクに呼んでください」と言われてしまった。早く慣れなきゃ。
秋山さんはホントに明るくて気さくに話しかけてくれる。
「一気に4人も女性メンバーが増えたねぇ!あっ、真子さんも来てくれましたから5人ですね。ホントに片身狭かったんですよぉ。」
秋山さんの冗談に皆がクスクス笑っている。
「でも、確かにそうね。坂口さんも千佳ちゃんも自分の担当が相当忙しかったからなかなか4人でお茶なんて出来なかったから。」
「でもこれからは裕子ちゃんが一気に忙しくなるんじゃない?ついに施設管理部出来ちゃったし。」
真子さんが裕子さんに冗談っぽく発破をかけてます。裕子さんも困り顔。
「施設管理はファミリア入社してずっと担当してましたけど、サポート部に移って二年は一切関わってませんでしたから、早くブランクを取り戻さないといけません。」
「でもぉ~、副主任が頼れる人ですからねぇ~。しっかりコミュニケーション取ってお仕事出来ますもんねぇ~。」
秋山さんが裕子さんに意味ありげな言い回しをする。途端に裕子さんの顔が真っ赤になってしまった。
「ちょっと!何言ってるの!」
「えっ!?裕子ちゃん。そうなの?」
「まさか。及川さん?そうなの?」
慌てる裕子さんに真子さんと坂口さんが小声で詰め寄ります。裕子さんは「違うんです。違うんです。」と否定してますが、状況分からない私でも副主任を任せられた及川さんに好意があるのはバレバレです。
すごいなぁ。本社のリサーチ部で大っぴらにこんな会話してたらお局さん達に嫌な顔で睨まれてたのに。
雪村さんがいらっしゃったサポート部なんて私達からすれば、いわゆる高嶺の花。容姿端麗・高スペックな社員(男女共に)だらけの部署って感じで、はっきり言ってしまえば女性社員の中では憧れるか激しく嫌うかのどちらかだった。私は憧れまくってた。
裕子さんは真子さん達に小声で「内緒でお願いします。内緒でお願いします。」と恥ずかしそうに繰り返していました。私が管理職の方に持っていたイメージとはだいぶ違う良い雰囲気を感じていました。
うん。楽しくなりそう。
・・・・・・・・・・
2018年7月30日(月) Vandits事務所 <常藤 正昭>
今日は広報部が最近ずっとかかりっきりになってくれていたVandits安芸のグッズの試作品が出来上がったと言う事で、私と和馬さんで確認する事になりました。広報部からは山下くんと有澤くんが参加してくれています。
「よし、じゃあ見せて貰おうか。」
和馬さんの声にビクリと肩が跳ねる二人。さすがに初めてのグッズ製作ですから緊張はするでしょうね。しかも和馬さんはデザインの判断には一切関わっていません。「自分にはそう言うセンスが無い」と最初から関わらないと決めていたようです。
さすがに一度も確認せずに販売は宜しくないと言う事で、試作品を確認して貰う事には承諾してくれました。
有澤くんが小さな段ボールからいくつかのビニールを取り出します。緊張した声で「確認お願いします」と私達の前に差し出します。
和馬さんが袋を開けると、ユニフォームとTシャツ、タオルマフラーは二つのデザイン。そして応援用の手旗、そして何やら風船のような物もありました。
山下くんが一つ一つ説明をしてくれます。
「ユニフォームに関しては広報部の判断としては四国リーグに上がるまではデザインの変更は行わないようにしました。そうする事で年度ごとにデザイン変更が譜代衆のロゴ分だけになるので予算カットが出来ます。販売用ユニフォームは譜代衆の中でユニフォーム契約していただいている6社のロゴまたは社名の入ったデザインを一種類作り、もう一つデザインが全く同じTシャツを製作します。こちらには譜代衆のロゴは入りません。」
和馬さんがデザインを見ながら話を聞いています。まぁ、ユニフォームに関しては既に試合で使用されていますので、判断としてはTシャツの販売をするかどうかです。
「Tシャツを作る判断になった理由は?あと、それぞれの値段はいくらくらいを想定してる?」
「Tシャツ製作に関してはユニフォームに手が届かない若年層のファンや家族で複数枚買いたいと思った時に、全員がユニフォームと言うのはかなり高額です。その代わりと言えば何ですが、Tシャツなら手が出やすいかと。」
「なるほど。」
「ユニフォームに関しては今の所12,000円~9,500円の範囲で考えています。Tシャツに関しては3,000円~1,980円の範囲内です。これは初期ロットをどれくらいに設定するかで変わって来る計算です。」
「ふむ....なるほどねぇ....」
緊張した空気がダイニングの空間に漂います。隣のリビングでデスク作業をしている営業部のメンバーもこちらの話を気にしている様子です。思ったよりも和馬さんの反応が良くないと見ているのかも知れません。
「今日、GOサイン出して最短で販売出来るのはいつだ?」
「すでにデザイン画はあちらも持ってくれていますので、ユニフォームは200着なら9月中旬。Tシャツは八月末までに500着までなら用意が出来ます。」
「まぁ、正直今年中にその枚数を売り切るのは難しいだろうからなぁ。どれだけ在庫を抱えるかって事になるのか。」
「........そうですね。」
在庫。あまり聞こえの良い単語ではありませんが、これをきちんと想定していなければ在庫を抱えると言う事は赤字を抱えると言う事です。しかし、安全に考えすぎて全く足りないと言う事になってもいけません。判断は難しいです。
「常藤さんとしては?どう思いますか?初期ロット。」
「ユニフォームに関しては200着を一ヶ月半で製作出来るのであれば、二次ロットからは1週間くらいは早まると判断して、残り50枚になった時点で100~200着を発注かけてある程度の枚数が用意出来次第こちらが取りに伺えば、品切れを起こしたとしても期間は短く済むと思います。Tシャツも同じですね。初期で500枚頼んでおいて、残り100枚の時点で発注をかける。と言う感じでしょうか?」
「なるほど。ユニフォーム200枚だと原価120万から130万か。グリットさんはかなり頑張ってくれてる金額だな。」
「はい。」
今回、チーム設立時にユニフォーム製作を依頼した地元企業です。よさこい祭りの衣装なども手掛ける会社さんですが、長年衣装を製作してきたチームがこの数年で踊り子の数が減り、スケジュールと人員的にもサッカーユニフォームの製作も受け付けてくれるようになったタイミングで知り合えました。
和馬さんはずっと何かを考えています。デザインが良くないのでしょうか。それとも金額面でしょうか。しかし、私判断で言わせて貰えればこれ以上の金額はこの少ないロット発注では厳しいと思われます。であるならば、やはりデザインと言う事なのでしょうか。
緊張しきった広報部のお二人に悪いので、私が口火を切る事にしました。
「和馬さん、何か懸念点がありますか?」
私の言葉に皆が不安に思っているのを感じ取ったのか、和馬さんは慌てて答えます。
「いやいや!このデザインが気に入らないとかそう言う事では無くて。実は芸西村のサッカーグラウンドのこけら落しを行うまでに販売が間に合えば良いなぁくらいに思ってたんですけど。」
「日程的には問題ないように思いますが。」
「はい。それに予約販売と言う形も取れると思います。」
私の言葉に山下くんが言葉を添えます。和馬さんはそれでも難しい表情のまま、頷きながら何かを考えています。
「いや、実はまだ構想の段階だったんだけど、こけら落しはVandits安芸vs高知ユナイテッドSCのフレンドリーマッチを考えてたんです。」
和馬さんの言葉に隣のデスクスペースにいる営業部のメンバーも色めき立ちました。高知ユナイテッドSCさん。言わずもがな、高知県にあるサッカークラブの頂点。所属しているのは四国リーグですが、間違いなく高知県内の中でJFL・Jリーグに一番近いチームです。
しかし、和馬さんには何か考えがあるようです。
「最初はさぁ、それで盛り上がるんじゃないかなぁって思ってたんですよ。でも....うぅ~ん。何ていうんだろう。それって内輪だけの盛り上がりになるんじゃないかって思ったんです。」
「どう言う事ですか?」
隣の部屋にいるはずの板垣君からも質問が飛びます。おやおや、もう皆さん仕事どころでは無いようですね。
「このフレンドリーマッチって楽しいのはうちのサポーターだけなんじゃないかって。だって、うちからしたら高知最強チームへの挑戦だけど、相手からしたら県2部でちょっと調子が良いチームが金に物言わせて専用グラウンド作って招待してきたって認識しか無いと思うんだよね。」
相変わらず歯に衣着せない方ですね。もう少しオブラートなり厚手の包み紙に包んでから相手を思いやった内容でお話していただけると良いのですが。
「だったらさ、こっちがJFLが参入が見えて来て、とか。もしくは今のグラウンドは8000人ベースまでしか観客席は広げられないんだから。それ以上の、いわゆるスタジアムを建設した時に高知最強決定戦した方が内外からの注目は凄いんじゃないかと。」
「でも、それまでユナイテッドさんがJリーグ入りしてたらどうするんですか?」
秋山くんの質問に和馬さんはポカンとした顔で不思議そうに答えます。
「え?ユナイテッドがJリーグ入りしてない方が良いの?」
え?高知ユナイテッドさんに先にJリーグ入りされて良いんですか?
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