第2章 魔王討伐メンバー

第15話 2週間の獲得


 魔王討伐メンバーと言われても……。

 正直なところ、今の俺には無理なのではないかと感じた。


 先にこの状態を解除して貰うことはできるのかと、ロイアを通して尋ねてみると、それは無理だと返答が来た。

 理由としては、残る魔力を消費することで現世に留まれなくなり、自身が消えてしまう前に、確認の時間が欲しいとのこと。


 それなら納得できなくもないのだが、今の俺が話せるのはロイアだけ……。


 俺はロイアを真っ直ぐに見つめた。


「……何?」


「お願いします。メンバーに入ってください。絶対傷つけない……いや、ロイアさんの方が強いでしょうが、とにかく! 悪いようにはしませんのでどうか!」


「言うと思ったわ。私しかいないのだから、仕方がないのでしょうけど」


 軽くため息をついて、ロイアは首を縦に振った。


「良いわ。なんなら、こっちでメンバーも集められるわよ? って言っても、王国騎士とかよりも、クラスから集めた方が戦力として上でしょうけど……」


「ありがとうございます! 他は何とかしまs…………」


 言いかけて、そういえば何ともできないんだと口をつぐむと、彼女は投げやりに言った。


「できないでしょうね。……ねえ、メープル様、私ひとりがまずメンバーに入るから、その分数日だけ元に戻していただくのは? レドルさんも貴方のことを確実に信じるでしょうし」


 ロイアが言った“メープル様”と言えば、確かに誰もが知る英雄だ。


 およそ三百年前に実在した聖女で、当時魔界より現れた魔王を討伐したとされる、魔王討伐軍の一員だ。

 主に治癒魔法を担当し、知的で判断力があり、幾つもの危機を乗り越えられたのは彼女がいたからだと、こう言ってはなんだが、美人なのもあって国民達から人気な偉人だ。


 その聖なる魔法により、いつか次に魔王が復活するときの助けとなれるよう、死後残生をしていたとされていた伝説的存在。

 まさか本当に居て、流石にこんな公園にいるとは思いもしなかったが。


 暫くの沈黙、いや、メープル様の話の後で、ロイアは俺に向き直って言った。


「とりあえず、一人につき二週間くらいは戻せるんですって。メンバーは四〜八人くらいがお勧めらしいわ」


「アドバイスまでありがとうございます!!」


 何も見えないが、ロイアが見ていた木に向けて、俺は深々とお辞儀をした。


 その木の葉が一枚、風か何かの力に揺られて、ヒラリと舞い降りた。


「これは……?」


「それを握り潰せ、と言っているわ」


 良く分からずにくちゃりと握り潰してみると、木の葉から湧き出てきた黒い汁から靄が出て、体が真っ黒なそれに覆われた。


 なんだコレ、と言うまでもなく、俺の体内にも煙のような靄は侵入してきて、二回ほどむせた。


 二十秒ほどして靄が晴れると、体はなんともなく、何をされたのかがよく分からなかった。


「これで二週間は誰からも見えるようになったらしいわ。私には判断できないし、見えなかった相手とでも会ってきたら?」


「――ありがとう! 良かった、何でこうなったのかは分かんねーけど」


「……多分だけどそれは、言って良いかしら? 変な話をするけど」


「分かる? 聞かせてくれ」


 全く心当たりがなかった俺は、本当に純粋な思いでそう聞いた。

 このときまでは、ずっと忘れていたことだったから。


「……神様の御力ってやつ、じゃないかしら? 知っているでしょう? カリから聞いたんだもの」


「それ……」


 思い出したその話を聞き、ピンと来たものが、いくつかあった。


 能力が器にあっていないから、魔法を上手く操れない現象。不思議と明るかった夜。神界があるとされる空への昇天。


 思い返せば幽霊説以上に濃厚な線かもしれないのだが、まだ断言はできない。俺自身に、炎以外の魔法を使った感覚がないからだ。

 調子に乗るべきではない。


「可能性はなくはないと思うけど、俺、炎しか使ったことなくて、分からない」


「ふーん……。神様の御力、詳しく調べておいてあげるわ」


 おう、ありがとう……なんて片手を上げて普通に返事しかけ、ふと疑問が甦って上げかけた手を下げる。


 確か、そこまで俺を手伝おうとするのは、カリが云々とか言っていたような。

 だけれども一度二度遊んだだけの仲で、その彼女にそこまでされるのは一般的におかしいと思う。


「だから、どうしてそこまでするんだ? カリの友達って言っても、まだそこまで仲良くは……」


「言ったって分からないでしょ? 例えばの話だけれど、貴方転生は信じてる?」


「え……? まあ信じるよ」


「ほら信じな……そうなのね。夢でも見てるのかしら。じゃあ変な話するけど聞いてくれる?」


 後半から深刻な顔つきになったロイアに対し、俺は分かったと頷いた。

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