第5話 魔法測定がチート級



 休み時間になると、お目当てのロイアの席は、友人であろう貴族令嬢で固まっていた。


 大人達は割と二人の関係を知っていたけども、コルサニアが例外なだけで、子ども達は割と知らないものか。俺も知らなかったけど。


 おそらく子どもに適当なことを言い、それが嘘だったときが恐ろしかったのだろう。


 が、ロイアが友人に話していないというのは意外で、コルサニアに嫉妬心むき出しにしたのもまた、意外だった。


「ロイア、いつからの関係なの!?」


「王子と婚約とか聞いてないわ!」


「だ、だってあまり言わないでほしいって言われたからぁっ!」


 このクラスはカリの言葉を聞き、全員がクラスメートなのだし、平凡なしゃべり方をしようと、誰も言わずともそう決まった。

 むしろ、そうしないと命が危うそうでそうなった。


 俺としては、女子同士で恋バナしていてくれると、いちいち他人の俺が聞かなくても良くなり都合が良い。

 席が近かった男子としゃべりながら、俺は意識の半分を彼女達に向けていた。



「それで! いつなのよ!?」


「いつって……それは内緒よ。記念日だもの」


「どうやって知り合ったの?」


街で会って~、カリのこと王子って知らなくて~、イケメンだったから声かけたらぁ」



 ……色々突っ込みたいが我慢。


 俺が今話しているのは、近くの席にいたトレニアだ。突っ込みではなく会話をする。


 トレニアは面白くて話が合う。

 完全にこっちと仲良くしゃべっていたいが、ここで聞き逃すともうチャンスはないかもしれない。



「ねぇ、ナイトピアとはどこまで行ったの? キスとかしちゃった??」


「きゃーっ! やめてよもう!!」



「なんそれ!?」


 ……堪えきれずに大きめの声で突っ込んでしまった。


 クラスメート達の注目が集まるのを肌で感じた俺は、トレニアに「今の話もっかい聞かせて!」と、適当なことを言った。


 トレニアは、聞き直すことじゃ……、と言ったが、何とか言葉でねじ伏せた。危なかった。ごめんよトレニア。



 俺が気になったところは三つ。記念日、イケメンに声かけ、どこまで行ったか。


 出会った日記念日だとか、そんなものまで記念にするのか。

 誕生日だとか結婚記念日なら分からんでもないが、流石に出会った日はないだろう。


 イケメン。それは良いとして。

 下級とはいえ貴族令嬢が、街で出会った素性の分からない男にナンパ!? 常識外れすぎるだろう。


 どこまで行ったかだなんて、そんな質問をここでするのは、失礼にも程がある。

 場所として、どこまで行ったのー(どこでかけたのー)? なら分かるが、恋愛の進展を聞くなんてタブーだろう。

 許容して笑う皆が怖い。


 俺がおかしいのか?


 このとき感じた違和感は間違いではない。

 それは翌日の授業で明らかになった。







「カリ・ナイトピア」


「はい」


 始まったのは魔法測定。


 皆のおおよそのレベルを知り、それに合った授業をするための測定だ。


 始めに行われるのは、基礎魔法をどこまで精密に扱えるのか。

 俺が炎を扱うように、皆もまた、それぞれに基礎魔法を持っている。


 具体的には、魔法を使って読める綺麗さの文字を書き、そのサイズで上位下位が決まる。

 レーザーや氷、石などの魔法を使う者が得意とし、炎や闇、空調などの魔法を使う者が苦手とする。


 俺も苦手ということで、そこまで緊張することなく、カリの手元と的を交互に見ていた。



 王子の手元が黄金に光ったかと思えば、その光は神々しいつるぎへと姿を変えた。

 王子がそれを軽く投げると、つるぎは的に向かって一直線に飛んでいく。


 突き刺さったそれを、的に歩いてきた王子が抜くと、そこにあったのはあまりにも小さな点。


 教員が、拡大認識魔法のかけられたアイテムで見てみると、一平方ミリメートルにも満たない大きさで、“A”と書かれていたそうな。


 評定は文字通りA。

 A〜Eまであり、Cが普通となるが、この学園に入学したほどだから、まずD以下は誰も取らない。


 得意な人はB、苦手な人はCとなるのが基本だが、今回で言うと、五平方ミリメートル以下という超人のみがAを取れる。

 この天照魔法学園中等部でも、一年初めで取れるのは学年にゼロ〜三人。全体の二%程度しか取れないということだ。


 それを大きく下回る数値が出たとのだから、この場にいる全員が仰天した。


 このとき俺は、第一王子は流石だな、程度にしか思っていなかった。


 二番目のカミュード・トロフィ他国王子がA、三番目のステア・プロマイズ他国王女がAを出し、カリ王子ほどの成績ではなかったが、目玉が飛び出るかと思った。


 と思えば、上級貴族達も余裕はないながらことごとくA、ロイア達下級貴族も、滑り込みAや高得点のBを総ナメ。


 俺がBよりのCを出したその後の市民勢も、全員Bは取っていた。


 教師と俺だけが呆然としている中、想像より簡単だったという声が飛び交う。

 これだけで俺のプライドはズタズタになったのに、追い打ちをかけるのは次の測定。


 俺が得意な、広範囲魔法。


 どれほどの使い手でも、中等部一年が、天照のグラウンド以上の広さを出せるはずがないのに、上位はことごとく越えて行き、A。


 俺はと言うと、ぎりぎりAに滑り込んだくらいで、Cは誰もいなかった。

 レーザー使いでさえBを取ったのだから、恐ろしくてたまらなかった。


 



 今日はその二種目のみだが、残り五種目は随時行われていく。

 こんな奇跡は今回だけだと信じて、俺は傷ついた心を無理に立ち直らせていた。



 ただ幸運だったのは、皆に違和感を抱いたのは俺一人ではなく、担当した教師もだった。

 その教師に呼ばれ、ドーピング等を見なかったかと聞かれたが、見ていないし、NO以外に答えようがない。


 揃いも揃って、階級や年齢にしてはチート級。

 階級が高い者ほど教育のチャンスもあるから、まだ王子、王女がAなのは分かるのに。


 この日のことは、教員会議の議題に上がったと、翌日俺はその教師に聞いた。

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